サスペンス・ホラー

怖い話『握り返してきた手』

 

小学生低学年の頃、母に連れられて、遠方へ買い物に出かけたときのことです。

 

夕方の帰りの電車で、運悪く帰宅ラッシュの時間帯に、ぶつかってしまいました。

わたしはすし詰め状態の電車の中で、母とはぐれてしまいました。

人ごみの中で、もみくちゃになりながら、

 

「お母さん、お母さん」

 

と、母を呼びました。

すると、人の隙間からニュッと、手が伸びてきました。

わたしは母だと思い、その手に掴まりました。

母も、わたしの手をしっかりと握り返してきました。

 

電車が駅に停まり、ドアが開きました。

人の波が、ホームへ流れ出します。

母の手に引っ張られながら、わたしも電車から降りようとしたとき、

 

「ひろくん!ひろくん!」

 

と、わたしの名を呼ぶ声がしました。

振り返ると、後方に母が立っていました。

 

- これはお母さんじゃない! -

 

わたしは握っていた手を、必死に振りほどきました。

振りほどいた手は、人の波に飲まれながら、見えなくなっていきました。

 

文章:百百太郎

 

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