わたしがまだ、幼い子どもだった頃の話。
当時、父親がドライブが好きで、休日になるとよく車でお出かけしました。
車はいつも自宅横に駐車してあり、お出かけになると、わたしが先に車に乗り込み、父を待つのです。
わたしがひとり車で待っていると、いつもお婆さんが通りかかって、車内を覗き込んでは、
「お出かけかい?」
と声をかけてきました。
ご近所さんでしょうけど、知らないお婆さんです。
毛布に包まって、身を隠していても、
「お出かけ?」
とお婆さんの声がして、見ると、ドアガラス越しにお婆さんがニコニコしながら、こちらを見下ろしています。
ある時、
「お婆ちゃんも一緒に行く?」
と言ってみました。
「わたしはもうたくさんだよ、そんな棺おけみたいな狭いとこ」
その時は、お婆さんが何を言ってるのか理解できませんでした。
今になって考えると、ご近所さんであろう、そのお婆さんと顔を合わせるのは、車の中にいる時だけでした。
文章:百百太郎
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