サスペンス・ホラー

怖い話『握り返してきた手』

 

小学生低学年の頃、母に連れられて、遠方へ買い物に出かけたときのことです。

 

夕方の帰りの電車で、運悪く帰宅ラッシュの時間帯に、ぶつかってしまいました。

わたしはすし詰め状態の電車の中で、母とはぐれてしまいました。

人ごみの中で、もみくちゃになりながら、

 

「お母さん、お母さん」

 

と、母を呼びました。

すると、人の隙間からニュッと、手が伸びてきました。

わたしは母だと思い、その手に掴まりました。

母も、わたしの手をしっかりと握り返してきました。

 

電車が駅に停まり、ドアが開きました。

人の波が、ホームへ流れ出します。

母の手に引っ張られながら、わたしも電車から降りようとしたとき、

 

「ひろくん!ひろくん!」

 

と、わたしの名を呼ぶ声がしました。

振り返ると、後方に母が立っていました。

 

- これはお母さんじゃない! -

 

わたしは握っていた手を、必死に振りほどきました。

振りほどいた手は、人の波に飲まれながら、見えなくなっていきました。

 

文章:百百太郎

 

関連記事

 

関連記事

  1. 怖い話『ちょっと通りますよ』
  2. 怖い話『おじいさんが寝てるんや』
  3. 怖い話『誰のお母さん?』
  4. 怖い話『守る人』
  5. 怖い話『開かない襖』
  6. 怖い話『公園のベンチで寝ていると』
  7. 怖い話『震える犬』
  8. 怖い話『バタバタバタ』

おすすめ記事

エッセイ:『癒されよう』

「あ―頭が痛い」二日酔いから俺は目覚めた。な…

何を信じるか

人は誰でも良くなりたいと願っているものです。悪くなりたいなんて誰も思わないでしょ…

『最低の人間…』―最低の人間が近くにいてごめんなさい―

最低の人間と…言われた人間は…心が崩壊した。…

A型作業所、B型作業所、就労移行支援にすぐに通所できるようにしてほしい

A型作業所、B型作業所、就労移行支援事業を利用するためには、受給者証が必要となります…

安直なツールとしての「蛙化現象」

言いたいことを、あらかた全部こっちのブログに書いているので、自分の個人ブログに書くネタがありません(…

新着記事

PAGE TOP