線路沿いの空き地に甘夏みかんの木があります。
そこから時々近所の子が、みかんを持っていきます。
ある時そこを通りかかると、小さな男の子がその場に立ち竦んで、ジーッとみかんの木を見上げていました。
子供たちは手の届くところからもいで行くので、後から来た小さい子には、手の届かないものしか残っていないのでしょう。
翌日もそこを通りかかると、同じ子がいました。
やはり、ジーッとみかんの木を見上げています。
「取ろうか?」
とわたしはその子に近付いていきました。
適当にみかんに手をかけると、その子は
「違う、違う、それじゃない」
と言います。
「これか?これか?」
とわたしは、その子が指差すのを見ながら、次々とみかんに手をかけていきます。
ようやく、目当てのものに手をかけたようで、
「それ!」
それはみかんとは違うような感触がしました。
わたしがそれを確認する間もなく、男の子はわたしの手からサッと奪い取ると、大事そうにそれを手で包み込んで、去っていきました。
後日、その空き地の壁ひとつ向こう側で、母と赤ん坊が列車にはねられるという人身事故があったことを知りました。
遺体はバラバラになって周辺に飛び散り、赤ん坊の一部だけが未だに見つからないのだそうです。
文章:百百太郎
関連記事
- 怖い話『畑の中に佇む女』
- 怖い話『わたしはここにいる』
- 怖い話『かまくら』
- 怖い話『ちょっと通りますよ』
- 怖い話『水浸しの郵便受け』
- 怖い話『新聞の勧誘』
- 怖い話『窓の外から笑うもの』
- 怖い話『おじいさんが寝てるんや』
- 怖い話『バタバタバタ』
- 怖い話『ヘッドライト』
- 怖い話『なきごえ』
- 怖い話『帰ってきたよ』
- 怖い話『地域ルール』
- 怖い話『断崖の遺物』
- 怖い話『家の中のかくれんぼ』
- 怖い話『ウォータースライダー』
- 怖い話『物が無くなる部屋』
- 怖い話『二階の子供』
- 怖い話『隣のスナック』
- 怖い話『スリッパ』
- 怖い話『チャイルドシート』
- 怖い話『プールの更衣室での出来事』
- 怖い話『こっちだよ』
- 怖い話『眠る男』
- 怖い話『丸められた紙』
- 怖い話『もうちょっとだったのに』
- 怖い話『午後の授業中の怪』
- 怖い話『そこにあるもの』
- 怖い話『仏間の少女』
- 怖い話『戻ってきたのは誰?』
- 怖い話『二階からの誘い』
- 怖い話『水の中へおいで』
- 怖い話『取りに来て』
- 怖い話『開けてください』
- 怖い話『事故物件での出来事』
- 怖い話『手が届かない』