サスペンス・ホラー

怖い話『もうちょっとだったのに』

 

踏み切りを渡っていると、すれ違いざまに呼び止められました。

 

「帰りの電車賃がなくて困ってるんです。貸してもらえませんか?」

 

わたしは「家族に迎えに来てもらえば?」「警察に相談してみれば?」と提案するのですが、どれも嫌だと言う。

 

そうこうしているうちに、カンカンカンと警報機が鳴り出しました。

 

「踏み切りから出ましょう」

 

わたしがそう言って歩き出そうとすると、その人はわたしの腕を掴んできました。

 

「電車くるから、危ないから」と言うわたしの心配をよそに、腕を引っ張って踏切内に留まらせようとします。

顔を見ると半笑いです。

 

― この人、おかしい ―

 

電車が近くまで迫ってきています。

わたしは必死に手を振りほどきました。

 

踏切から出て振り返ると、その人はその場に立ち竦んだまま

 

「もうちょっとだったのに!」

 

と叫ぶと、電車に轢かれてしまいました。

 

電車が通過したあとを見ると、轢かれたはずの人はどこにもいませんでした。

ふと、視線を落とすと、警報機の脇の献花が目に入りました。

 

文章:百百太郎

 

関連記事

 

関連記事

  1. 怖い話『仮眠室での出来事』
  2. 怖い話『わたしの部屋はどこ?』
  3. 怖い話:『動かない霊柩車』
  4. 怖い話『体育倉庫の子ら』
  5. 怖い話『終着駅』
  6. 怖い話『笑う警察官』
  7. 怖い話『私に見える女性』
  8. 怖い話『デジャブ』

おすすめ記事

しつこい男は嫌われる

女「あなたのことが好き」 男「気持ちが伝わってこない」女「好き、好き、大好き…

発達障碍は適性がはっきりしている

 発達障碍者は一般人よりも部署選びが重要となる 筆者は梱包の仕事をしていたことが…

怖い話『砂山』

わたしが幼かった頃の話です。その時、わたしは公園の砂場でひとり、砂山を作って遊ん…

怖い話『何にぶつかったのかわからない』

友人の頭にアザがある。まだ保育園にいたときにできたアザなのだが、なぜできたのかわ…

不名誉な記録が勲章になることもある

 日本では不名誉な記録というのがあります。本来ならばよくないけど、プラスにとらえられ…

新着記事

PAGE TOP