父は一時期、幼いわたしを川向こうの商店街の寿司屋に連れて行ってくれました。
その寿司屋の奥の扉を開けると、長い通路がありました。
その左右が居住スペースになっており、そこを通り抜けた先にトイレがありました。
トイレの横に建物の出口があり、幅1メートルほどの路地を挟んで隣の建物の扉がありました。
そこはスナックの裏口になっており、そこから時折歌声も聞こえてきました。
幼かったわたしはトイレで用を済ました後、わざとそこの扉を開いて店内の人の反応を窺って楽しんでいました。
ある時、父と一緒にトイレに立ったときに、父の制止を聞かずにスナックの扉を開けました。
扉を開けると室内が真っ黒で、まるで火事のあとのようでした。
父の話では、そこはだいぶん前に、小火を出してからずっと放置されたままなのだそうです。
わたしは狐につままれたような気持ちでしばらく立ちすくんでいました。
今思えば、向こうもそんなわたしの反応を見て、楽しんでいたのかもしれません。
文章:百百太郎
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