アパートで一人暮らしの友人がいます。
アパートに越してきてから数か月、概ね快適でしたが、よく「物が無くなる」のだそうです。
「ねずみの仕業だと思うんだ」
一見ねずみが出入りしそうな隙間とか、なさそうな感じの部屋です。
無くなるものは、消しゴムやらボールペンやらマジックのキャップやら、いずれもたいした物ではありません。
から揚げが転がって視界から消えたと思ったら、そのまま行方不明になったこともあるそうです。
ある日、わたしがその部屋に泊まったときの事です。
わたしはベッドの友人の隣で、床にマットを敷き、メガネを枕元に置いて寝ていました。
夜中に何やら気配を感じて目が覚めました。
見知らぬ女性が椅子に座って、カーテンの隙間から外を眺めていました。
わたしは霊だと直感しました。
その女性の霊はわたしに気付くと、こちらに手を伸ばしてきました。
わたしは目を閉じて必死に念仏を唱えました。
朝、わたしのメガネは失くなっていました。
友人に昨夜のことを話すと意外にも、「そうか、そうか」と言う反応でした。
友人は薄笑いを浮かべて言いました。
「それは、ねずみに持っていかれたな」
― ねず・・・え、ねず美?・・・ ―
その時になって初めて、友人がおかしくなっていることに気付きました。
文章:百百太郎
関連記事