前回まで
・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(1)』
・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(2)』
・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(3)』
・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(4)』
・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(5)』
前回からの続き
アヤカは三日間、家でのんびりとしていた。一日二一時間働いていた頃が、幻のように感じられた。
二日目からの食事はあまり食べられなかった。空腹になるのは、洞窟に潜ったあとだけのようだ。
米についてもとてもよかった。ケーキを感じさせるような甘味は、米を食べているとは思えなかった。
米以外の食料が底をついたので、スーパーに買い出しに行こうと思った。今回は肉ではなく、魚を中心に購入しようかな。
「アヤカです。三日前にここに引っ越してきました」
「ミサトです。よろしくお願いします」
ミサトと名乗った女性は二〇歳前後といったところか。若いからか、肌にみずみずしさを感じた。
理想的な肌の色をしている。アヤカのように淀んだところは全くなかった。
ミサトはどういうわけか一歩だけ後ろに下がった。警戒されているのかなと思ってしまった。初対面の人に怖がられるのは心外だな。
「体内からすごいエネルギーを感じます。レベルは85~95といったところでしょうか」
レベルをどのようにして測定したのか。鑑定士の力を持っているのかな。
「アヤカさんなら、洞窟のラスボスを倒せるかもしれませんね」
洞窟のラスボスを倒さなくとも、十分に生活できる。最低限の生活さえ確保できれば、それ以上を望むことはない。
「洞窟のラスボスは強いんですか」
「普通の人は倒せません。レベル50で挑んだ人もいますけど、帰ってくることはありませんでした。過去に5人くらい挑戦したけど、全滅だったようです。永遠に帰らぬ人となりました」
100万ゴールドを入手できるというボスは、一筋縄ではいかないのか。大金が簡単にもらえるのなら、誰も労働などしない。
米が20キロで1ゴールドの世界である。100万ゴールドを入手しても使い道がない。貧しい人に寄付をするしか有効活用は見いだせない。
「アヤカさん、私の妹の命を助けてください。手術するためには、50万ゴールドが必要なんです」
医療費は高い世界なのか。命に優しいと思っていたけど、ある意味ではシビアといえる。病人は死ねといっているに等しい。
「こんなことをお願いできるのは、アヤカさんだけです。他の方にはお願いできません」
他人の命を助けることよりも、ラスボスはどれくらいなのかが気になる。アヤカは話にのることにした。
「わかりました。100階のボスを倒してみましょう」
レベル90もあるし、無限復活、異常防止のスキルを所持している。失敗したからといって、死ぬことはない。
「ありがとうございます」
アヤカは冒険に旅立つ前に、ミサトに条件をつけた。
「一つだけ条件があります。妹の様態を見せていただけなければ、お金はお支払いできません」
「私は信用されていないみたいですね」
「見ず知らずの人を信用できるほど、お人好しではありません」
現実世界でどれだけの人に騙されてきたか。一時期は人間不信で、誰の意見にも耳を貸さない人になっていた。
「私はこういうものです」
名刺のようなものを渡され、「緑の村 王女」となっていた。
この国で一番偉い人であることは分かると、アヤカは条件反射的に土下座をしていた。
「数々の非礼、無礼、大変申し訳ございませんでした。どうか命だけはお助けください」
緑の村にやってきて、1週間足らずで処刑されるのは勘弁願いたい。現実では早くあの世に旅立ったので、こちらの世界では30年は生きたい。
「顔をあげてください。王女という身分だけで、ごくごく普通の人ですよ」
普通の人とかいっておいて、テレポートとかの超能力を使用するかもしれない。普通という人ほど、普通ではないというのはよくあるパターンだ。
「アヤカさん、妹の命を助けてください。緑の村で魔王に勝てる人間は、あなただけです」
人間? この村には人間以外の種別も住んでいるのかな。人間だけが住んでいるように見えて、実は多民族国家なのかもしれない。
そんなことよりも、ミサトの妹の命を助ける方が先だ。アヤカは洞窟に向かって、歩を進めることにした。
アヤカはボスを倒すことができるのでしょうか。
文章:陰と陽
画像提供元 https://foter.com/f6/photo/44682896670/0a245c630d/