コラム

小説:『自分の道(8)』

前回まで

小説:『自分の道(1)』

小説:『自分の道(2)』

小説:『自分の道(3)』

小説:『自分の道(4)』

小説:『自分の道(5)』

小説:『自分の道(6)』

小説:『自分の道(7)』

 

前回からの続き

 

距離感

 デートをしているにもかかわらず、男女の掌は離れたままだった。浩紀と交際を開始させてから、このようなことは一度もなかった。

 佳純は手を重ねたいと思ったものの、浩紀は受け入れそうな雰囲気ではない。拒絶されるのを恐れるあまり、彼の手を握ることはできなかった。

 時間をかけて少しずつ関係を築き上げてきたのに、たった一度のことで崩壊するのは避けたかった。佳純はどうにかして状況を打開できないか、と必死に知恵を振り絞る。

 路上に生えている草木が目に入る。ゆらゆらとなびいているところは、人間の心の移り変わりを連想させた。浩紀の心もあんなふうに、遠くに行ってしまうのかな。

 浩紀は不安が大きいのか、えくぼをくぼませている。幼馴染に心変わりしないかということが、気になってしょうがないようだ。

「佳純は幼馴染のことをどう思っているの」

 佳純は現状についてシンプルに説明する。

「地上にいる一人の男だよ」

 以前は恋心を持っていたという部分は、墓場まで持っていかなければならない。会社の個人情報よりも、厳重に管理する必要がある。

 浩紀はこれまで幼馴染の話をすることはなかった。一度は聞いておきたかったのだろうけど、関係に亀裂を入れないように自重していたのだと思われる。

 琢磨が空気を読んでいれば、ぶりかえさせることはなかった。幼馴染の犯した罪は、言葉で言い表せないほど重い。

 現状は幼馴染に対する恋愛感情は一ミリもない。他の異性と交際を開始させたことで、自分は利用されていただけだと悟った。そのときから、幼馴染に対する熱は急降下することになる。

「学校内では二人が恋人であるという噂は絶えなかった」

 幼馴染は恋人と勘違いされやすい一面を持つ。当人間の事情はなかなか考慮されにくい。

「過去はそうかもしれないけど、現状は全然違うよ。二人の関係は完全に清算された」

「それならいいけど・・・・・・」

 いつもは堂々としているのに、本日は弱々しさを感じさせる。心が離れていくのを恐れているようだ。

「交際を開始させる前に、倉橋君の彼女である、白石さんと話をする機会があったんだ。彼女の話によると、幼馴染の心は佳純にあるように感じるといっていた」

 クラスメイトだから話す機会はあるだろう。麻衣から伝達された情報は、浩紀にとっては受け入れがたい内容だ。

 浩紀は手をもじもじとさせていた。彼の心の中は安定していないのかもしれない。

「佳純も心のどこかで幼馴染とよりを戻そうとしていると思うと、いてもたってもいられなくなるんだ」

 こちら側としては、500パーセントありえない。麻衣の話を聞いたことで、確固たるものとなった。

「私の中では、幼馴染が交際をスタートさせた時点で終わったの。元に戻ることはもうないよ」

 浩紀は静かに空を見つめ、思いにふけっている。佳純の言葉は一ミリも耳に入っていないのかもしれない。

 浩紀は静かに口を開いた。佳純としては最も恐れる展開だった。

「心の整理をしたいから、当分の間は会うのをやめよう」

このまま破局につながるかもしれない。そのように思うと、佳純はいてもたってもいられなくなった。

浩紀に声をかけようと思ったものの、彼はすでにどこかにいなくなってしまっていた。

 

次回へ続く

 

文章:陰と陽

 

画像提供元 https://foter.com/f5/photo/21410901378/8be56127b9/

関連記事

  1. 福運
  2. 小説:『自分の道(6)』
  3. 言論の自由は確かにあるが
  4. 小説:『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(…
  5. 安部公房著『砂の女』のご紹介
  6. あと一勝すれば十両に残れる場合は幕下に落ちることは少なくなった
  7. エッセイ:『ある愚考のひとつのかたち』
  8. 本当の豊かさとは?

おすすめ記事

会社をすぐにやめる新卒

 新卒ですぐに会社を辞める人の体験談が書かれていますので、取り上げていきたいと思いま…

雲海に浮かぶ天空の城 :「竹田城跡」観光案内

 標高約354メートルの古城山(虎臥山)の山頂のほぼ全てをしめる竹田城(虎臥城)跡の…

怖い話『階段からくる子』

小学生のある日、お昼から雨が降り出した時のこと。下校時間にはすっかり本降りです。…

小説:『友達のいない男は、クラスメイトの男性恐怖症克服に協力させられた 上』

 第一章:一人きりの生活 松村浩二は変わり者だったためか、幼稚園…

コラム:『これからの医療者』

医療者に求められるものが大きく変わってきています。聖…

新着記事

PAGE TOP