コラム

小説:『自分の道(3)』

 

前回まで

小説:『自分の道(1)』

小説:『自分の道(2)』

 

前回からの続き

 

突然の告白

 玄関で靴を履き替えようとしていると、男子生徒から名前を呼ばれた。

「前園さん」

 琢磨以外の男性から声をかけられるシチュエーションはこれまでになかった。イレギュラーな展開に、頭の中は真っ白になってしまう。

 冷静さを取り戻すと、声をかけてきた男性の髪型、身なりを確認する。人間におけるイメージの90パーセントは、ここで決まるといっても過言ではない。

 男性の髪型は自然なスポーツ刈り。バッサリと切っているからか、爽やかなイメージを受けた。

身なりはカッターシャツの第二ボタンも着用している。最低限の常識を身に着けていると考えてよさそうだ。

 声をかけてきた男子生徒は、頭を深々と下げる。

「深水浩紀といいます。2年4組に所属しています」

 4組は別の授業を組んでいるため、接点はかなり少ない。4組で名前を知っているのは、マドンナと呼ばれている白石麻衣、中学校時代まで授業受けていたクラスメイトくらい。高校入学後に一緒になった生徒については名前すらわからない。

 琢磨以外の男性と接する機会が極端に少なかったため、佳純の唇はかすかに震えていた。異性に対する免疫を作っていないことが災いしていた。

 深水は心の中を読み取っていた。

「見ず知らずの男性から声をかけられたから、緊張しているんだね」

 かすかに頷くことしかできなかった。声を発せる状態になるまでは、時間を要しそうだ。

 佳純は不審者と接するかのように、おそるおそる声を発する。深水に対する警戒心はマックスに達していた。

「私に何か用かな」

 深水は自分の胸の中に秘めた思いを、単刀直入に切り出してきた。

「前園さんのことがずっと好きでした。僕と交際していただけますか」

 男に声をかけられたと思ったら、すぐに告白されるなんて。唐突すぎる展開に、頭の思考回路は完全にマヒすることとなった。

 一分後にようやく脳の配線がつながる。青い空を眺めると、まぎれもない現実であることを思い知らされた。

 佳純は深呼吸を幾度となく繰り返した。突然の告白によって、体内の酸素濃度が極端に減少したように感じられたためである。

鼻、口の両方で酸素を取り入れると、体内に取り込まれていく。全身にいきわたることによって、生命力を取り戻していくこととなった。

 幼馴染以外の男性に告白されたとしても、何ら違和感はない。それにもかかわらず、佳純の脳内は現実を直視できていなかった。

 佳純は交際を申し込んできた男に、現在の率直な思いを打ち明ける。

「名前、顔も知らなかった異性と交際するのは難しい。返事をするまでには、かなりの時間を要すると思う」

 直接的な返答は避けたものの、99パーセントは交際するつもりはなかった。初対面で告白してくる男は、まともな人間である確率は低い。

 交際したい気持ちがわずかながらに残ったのは、琢磨と離れ離れになったことで、心にぽっかりと穴が開いてしまったから。非常識な男は救世主になりえるかもしれない。一縷の望みにかけたいという思いがかすかに芽生えていた。

 教室内のやり取りを思い出す。翠は他の男性と交際するのを進めていた。いろいろな世界を知ることにより、琢磨以外の男性の良さを知ってほしいという思いを持っている。

 深水は期待した答えが得られなかったにもかかわらず、落胆した様子は見せることはなかった。心の中では寂しい思いをしているはずなのに、おくびにも出さないのはすごい。佳純なら告白を拒否された時点で、表情に出してしまいそうだ。

「いきなり交際を申し込まれたら、ビックリするのは当然だよね」

 佳純の心の中はぐっと動かされる。さっきまでは99パーセント断ろうかなと思っていたけど、半分くらいは交際してもいいかなと感じるようになった。

 突然告白をした男子生徒から、色々と聞き出すことにした。質問をすることにより、相手の熱意を図っておきたい。

「深水さんはいつから、私に好意を持っていたの」

 深水は胸の前で指を絡めていた。

「高校一年生の秋ごろです」

 一年も前から好意を持っているとは。佳純の知らないところで、誰かが心を奪われていたようだ。

 佳純はさらに踏み込んだ質問を投げかける。

「きっかけについても訊いてもいいかな」

 接点がほとんどなかったため、きっかけについては大いに気になるところ。どのようなところを見て、異性として興味を持つようになったのだろうか。

 返答されるまでに十分以上はかかるかなと思ったけど、三〇秒としないうちに答えは返っていた。深く考えていないようにも映るし、相手のことをしっかりとみてきたともいえるため、どちらなのか判断に迷う。

「フォークダンスで指を触れたときに、体内に本物の電流が走ったような気がするんだ」

 動機としては納得できるレベルにないものの、そんなものなのかなと思っている自分もいた。相手のさりげない行動や仕草に、好意を感じるというのはよくある話だ。

 深水と簡単なやり取りをしただけだけど、印象としては悪くなかった。この人となら一緒にやっていけるかもしれない、と本能で感じさせるものもあった。

 佳純は現在の気持ちを率直に伝えることにした。

「恋人は難しいけど、友達ならいいかな」

 浩紀に落胆した様子は見られなかった。最低限の収穫はあったのをよしとしているようだ。

「期待に添えるかはわからないよ。それだけははっきりと伝えておくね」

 佳純の通学する高校には240名近い男子生徒がいるため、他に熱中する可能性はおおいにある。他の男子生徒に興味を持った場合、深水との関係は打ち切りになる。

 佳純の二つの瞳は、仲睦まじそうにしているカップルをとらえる。二つのつながっている掌は、幸せであることをおおいに主張していた。

 

次回へ続く

 

文章:陰と陽

 

画像提供元 https://foter.com/f5/photo/2929965867/bed697e894/

 

 

 

 

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