心を満たしてくれる人は希少なのか、滅多に出会うことはない。一生に一度あればいい方といえよう。
桜はこれまでの人生で一人しか出会っていない。他の人がどんなに親しく、優しくしても、あの人よりは格段に劣っていると思ってしまう。
心を満たしてくれる人は手の届かないところに行ってしまった。どんなに伸ばしたとしても、指一本振れることすら叶わない。生きているうちに、顔を合わせる機会もないと思われる。
人間の記憶は、時間の経過と共に薄れていくもの。心を満たしてくれる存在のはずなのに、どのような声だったのかを完全に思い出すことができない。透き通っていたのをかすかに覚えているだけだ。
顔を思い出すために、学校時代の卒業アルバムをそっと開いた。心から本当に必要としてくれていたその人は、他人に向けて笑みを向けているように感じられた。一度でいいから、自分にも同じようにしてほしかった。
卒業アルバムをそっと閉じる。いつまでも過去に捉われていてもしょうがない。これから出会う人間を大切にしていけるといいな。
文章:陰と陽