友人宅があるマンションでの出来事。
友人宅を後にしてエレベーターに乗り込もうとすると、お婆さんがひとり乗っていた。
「上に行くよ」
そう言われて、見上げるとそのエレベーターは上行きの矢印が点灯していた。
「一緒に行くかい?」
お婆さんは冗談気にそう言った。
「いえ」
下に降りるつもりのわたしは自重した。
扉は閉まり、上階へ昇っていった。
しばらくすると、さっきのエレベーターが戻ってきた。
ドアが開くと当然さっきのお婆さんはいない。
エレベーターの中はお線香の匂いが充満していた。
そこはお婆さんだからという気持ちで特に気にしなかった。
1階に降りてビルを出ると、すぐ近くの葬祭場で棺が運び出されるところだった。
棺の後に付いて行く人が手にしていた遺影には、さっきのお婆さんが映っていた。
文章:百百太郎
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