コラム

小説:『彼女との約束(6)』

 

前回まで

小説:『彼女との約束(1)』

小説:『彼女との約束(2)』

小説:『彼女との約束(3)』

小説:『彼女との約束(4)』

小説:『彼女との約束(5)』

 

前回からの続き

 

 関取をかけた戦い

 夢桜は春場所において快進撃を続ける。5番相撲を終えた時点で五連勝と絶好調だった。

 現在の地位は幕下二枚目なので、6番相撲に勝利すれば十両昇進は決定的となる。幕下二枚目における六勝は、東筆頭の勝ち越しと同じくらいの効力を持つ。十両優先の相撲協会ではあるものの、二枚目で六勝した場合は十両の関取を押しのけて昇進できるといわれる。

 十両の下位の成績は今場所もよくなかった。このままいけば、三人くらいは幕下に降格するのではなかろうか。

 6番相撲の相手は元関脇の朝霧山。怪我で幕下四十三枚目まで番付を落としたものの、今場所は力強い相撲が戻ってきた。かつてを彷彿とさせる相撲を取っているようだ。

 朝霧山は幕下では感じたことのないオーラを発していた。関取になる人間というのは、風格も漂っているのかなと思わされた。

 元関脇とはいえ、実力は幕下クラスのはず。立ち合い負けさえしなければ、勝機は十分にあるはずだ。

結果は惨敗だった。五秒としないうちに土俵の外に追いやられていた。三役にいただけに、立ち合いの厳しさが幕下の力士とは大きく異なっている。ダンプカーの突進を受けたかのようだった。

 三年近く相撲を続けてきて、格の違いを見せつけられたのは初めてのことだった。上には上がいることを思い知らされた。場所後にはもっと稽古しないといけないな。

 七番相撲の前に、他の力士の成績を確認する。東筆頭の宝典は二勝四敗と負け越しており、一五枚目以内に全勝はいなかった。優先的に十両に上がれる人間は一人もいなかった。

 十両からの降格は一三日目終了時点で三人。他の成績との兼ね合いから、夢桜の十両昇進は確定的な状況となっていた。五年以内に関取になったため、実家を継ぐという話もなくなった。

 7番相撲の相手は元幕内の武天山。一時は引退もささやかれていたものの、虎視眈々と相撲を取り続けている。十両から落ちた時点で引退する力士も多いだけに、本気で相撲が好きなのかなと思った。

 西の花道に向かって、仕切りを行っている最中だった。観客席から女性の声が聞こえた。

「夢桜、ファイト」

 顔こそ確認できなかったものの、桜であることはすぐにわかった。十両昇進を決めた男を応援するために、わざわざやってきたのかな。

 あと一場所早く関取に昇進していれば、桜と結婚する夢を叶えられた。番付運に阻まれてしまったことで、話は消えてしまった。

 結婚することはできなかったけど、応援に来た女性のためにも白星を見せたいところ。夢桜は大いに気合を入れることとなった。

 立ち合い直後に、武天山のツッパリを受ける。幕内にいただけあって、威力はすごかった。

夢桜は力を吸収できるよう、体の向きを変えることにした。まともに受けなければ、威力はそこまでではない。

 武天山のツッパリ時に脇が甘くなることを見抜いた。手を前に出そうとする直前に、横から相手を一気に土俵外まで押し出す。十両昇進を決定的とする六勝目をあげた。

 桜は勝利の余韻に浸っているのか、館内でひときわ大きな声を出した。いつにもなく、興奮しているのを感じ取った

「夢桜・・・・・・最高」

 夢桜は顔合わせすることなく、黙々と館内に引き上げていく。桜は三年以内に関取になれなかったことをどのように思っているのだろうか。

 

次回へ続く

 

文章:陰と陽

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