コラム

ショートショート『幸運をもたらす亡霊』

 

 孝雄の二つの瞳に、鎌を持っている透明女が現れた。アニメでよくみる亡霊さながらだった。

 孝雄が驚く間もなく、亡霊は二つの目を光らせた。

「お前に不幸になるおまじないをしてやろう」

 亡霊は透明の巨大鎌をこちらに向けて振り下ろす。孝雄はかわそうとするも、お腹の回りを直撃した。

 実物でないだけあって、痛みを感じることはなかった。事実、一ミリたりとも出血していない。

 亡霊は任務を果たし、ニヤニヤとしていた。他人の不幸は蜜の味らしい。

「お前に災いが降りかかるだろう」

 どんな不幸なのかを聞く前に、亡霊は姿を消していた。実体がないだけあって、どこにいったのかわからなかった。

 家から一歩も出なければ、災いが降りかかることはない。亡霊の悪事をあざ笑うために、室内に閉じこもることにした。

 一時間経過、何も悪いことは起こらなかった。孝雄はさきほどの現象が幻だと思うようになった。

 外出するために、室内の扉を開ける。彼の家の前には、さきほどの亡霊が立っていた。

「おぬし、我の言葉を信じなかったのか。それならしょうがない。おまえにちょっとした不幸を授けることに・・・・・・」

 孝雄は一直線に駆け出していた。亡霊の言葉に聞く耳を持つ必要はない。

 数秒後、階段で躓いた。幸雄は地面に膝を打ちつけてしまった。その様子を見た亡霊が近づいてきた。

「あたしを信じていなかったみたいだな。不幸が降りかかるから忠告してやったというのに」

 亡霊が鎌を振り下ろすと、擦りむいたはずの皮膚が元通りになっていた。孝雄は力を持っていることを確信した。

「お前の一日の不幸はこれで終わりだ。思う存分、楽しんでくるといい」

 亡霊の加護に守られていたためか、人生で最高の一日を過ごすことができた。

 

文章:陰と陽

関連記事

  1. 漫画『君たちはどういきるか』【感想】
  2. 『La Peste』(Albert Camus)
  3. ちくま新書の「【シリーズ】ケアを考える」
  4. 車内での携帯電話での通話は、お控えください
  5. 世界の国と国旗☆第94回目 セントルシア
  6. 荻原魚雷『本と怠け者』ちくま文庫 のご紹介
  7. 小説:『彼女との約束(3)』
  8. 前野隆司著『実践ポジティブ心理学』のまとめ【第五回】

おすすめ記事

「苦しい」が「楽しい」に変わる「つらい」を科学的になくす7つの方法

「苦しい」が「楽しい」に変わる「つらい」を科学的になくす7つの方法…

精神科のケースワーカーで感じた、利点と限界

 精神科の一部ではケースワーカーを配置しています。利用することで、診断とは別に30~…

冬にもかかわらず春のような陽気

 冬真っ盛りなのに3月中旬のような気温。日本の冬はどこにいってしまったのでしょう。…

『上辺だけ…』

もう…上辺だけの友達なんて要らない。辛いこと…

『どんなに努力しても…』―努力しても報われないこともある―

やっぱり人間は…努力している人より…完璧な人…

新着記事

PAGE TOP