コラム

短編小説:『寝過ごして』

 

ぼんやりとざらついた意識のなかでふと目が覚めた。

 

いま昼なのか夜なのかよく分からなくて、ああそうだ、ベッドに横になりそのまま寝過ごしてしまったんだと思った。

 

枕もとの目覚まし時計に目をやると、もう夜中の12時を過ぎていて、数えたら10時間

ぐらい寝てしまっていた。

 

たっぷり寝たのでもうこれ以上寝られないけれど、明日は月曜で仕事なのでずっと起きたままだと仕事に差し障りが生じる、はぁどうしよう、いや、そもそも明日じゃなくてもう今日なんだと思い直した。

 

 

腹が減った。

 

しかし冷蔵庫にすぐに食べられそうなものは無く、仕方なく近所のコンビニに駆け込むことにした。

 

Family Mart入口付近でうんこ座りした少年たちがたむろしていた。

その横をちょっと緊張しながら通り過ぎて店内に入る。

 

すぐさま、

『メロディーチャイムNo.1 ニ長調 作品17 「大盛況」』

 

なる入店音が店内に流れる。ファミマの入店音の正式な名称だ。

 

雑誌コーナーで立ち読みをしている細身の若い男性や、眉をひそめてパンの棚の前に立ち尽くす中年男性、からあげくん一個増量中いかかですか~!と誰にいうともなく声を張り上げる店員などが目に入った。

 

…からあげくん?

 

ここは確かFamily Mart だったはず。いつのまにLAWSONに変わったのか。

だけど、さっきファミマの入店音が鳴っていたじゃないか。

 

棚に視線をうつすと、おにぎり屋のコーナーがある。まぎれもなくLAWSONだ。

 

少し考えて、「おにぎりおかずセット(おかか&鶏五目)」を購入することにした。

これは「おかか」と「鶏五目」のおにぎりに、ベーシックなおかず(唐揚げ、ゆで卵、ウインナー)を添えたおにぎりセットだ。

外に出ると、たむろしていた少年たちは姿を消していた。ほっとした。

 

それにしても、ローソンなのにファミマの入店音が鳴るとは、いったいどうしたことだ。

近頃はあらゆることがらが動転してしまっていて、ほんのちょっとおかしなことがあったとしても誰も気にもとめない。非常事態や例外状態が常態化したことで人々の感覚は変なものに対して麻痺しているのだ。

 

日常のそこかしこに、異常な世界への破れ目が存在している。

そのことにたまさか気づいてしまうことがある。

 

 

翌朝同僚にこの話をしたら、そのコンビニは潰れて歯科クリニックになったはずだよ、と

言われた。

そんなはずはない、確かにコンビニはあったんだと、悶々と思いながら仕事に集中できず

一刻もはやく確かめたいと思った。

 

仕事を終え帰宅途中にくだんの場所に向かった。

 

すると、同僚の言うとおり、コンビニは歯科クリニックに変わっていた。

 

あれからというもの、居心地の悪さを感じながら日々を過ごしている。

 

 

文章:増何臍阿

 

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/18962625095/913f5e2f20/

関連記事

  1. 2024年1月場所の十両番付予想
  2. 吉村萬壱『死者にこそふさわしいその場所』文藝春秋
  3. ショートショート『夢の中の衝撃的な出来事』
  4. 映画『ガンジー』をご紹介
  5. 「ふつう」と「ダイバーシティ(多様性)」
  6. 危険や罠の分類について
  7. 2023年9月場所の成績に基づく、十両、幕下の入れ替えは誰になる…
  8. 君は一人じゃない

おすすめ記事

『一気に崩壊…』―崩壊してしまえばもうどうでもよくなる―

何か嫌な音がする。それが…一気に崩壊した音な…

横綱の白鵬が3日目から休場(2021年3月場所)

 横綱の白鵬が3日目から休場します。右膝を気にしていたということなので、傷めているの…

野菜ジュースは糖質(糖分)が非常に多い

 不足している野菜を補うために、野菜ジュースを飲む人はいると思います。(筆者も飲んで…

多様性という「お題目」

例の婚活については、親が反対したため、始まる前から終わりました(挨拶)。と、いうわけで、フジ…

防災リュックを備えよう

防災リュックの中身。どれだけ数え上げられますか?食料等&nb…

新着記事

PAGE TOP