コラム

エッセイ:『確かなものを求めて』

 

不安をどうしたらいいのだろう、と考えることがあります。

 

生きていくうえで不安のない人などいないでしょう。

 

なぜ不安になるのでしょうか?

 

ある具体的な対象があって、それについての不安というものがあります。

経済的な不安、健康の不安、地震など天災に見舞われるのではないかという不安。

対人不安というものもあります。

 

例えば、今度面接を受ける予定があるとして、面接会場に向かう前に不安を感じないという人はいないのではないでしょうか。

今まで行ったことのない場所で、見知らぬ人(面接官)と相対する。どんな質問が来るかわからない。

とても不安です。

 

こう見てくると、次のことがわかります。

すなわち、不安は、どんなものであるかわからないという「確からしさの欠如」からくるのだということです。

 

だから、「確かなもの」を求めて生きていくことになります。

 

ところで、使うあてのない財産をためこむことに一生をかける人たちがいます。

そういう人たちにとって、金銭というものが確かなものに思われるからそのようにするのだと思われます。

しかし、金銭はあくまでも仮象であって、それがなんら不安を解消するものでないことは、

何十億というお金を動かすようなトレーダーがカップ麺をすすって必死に画面を凝視していたり、タワーマンションの住人が孤独死したりする事象を見れば明らかです。

 

それとは反対に、俗世から離れ修行に打ち込む人たちがいます。

柱頭行者シメオン(*1)などが代表です。

彼らも、「確かなもの」をただひたすらに求めて修行をし求道しました。

シメオンは、柱の頂上に自分を縛りつけ飲まず食わずでひたすら神に祈り続けました。

わたしたちから見れば破滅以外の何ものでもないです。

 

 

このように、「確かなもの」を求める願いというものは、二つの極に引き裂かれており、それぞれが狂気を帯びてくる。これが二重狂乱というものでしょう。

 

そうしたものと縁のないふつうのひとたち、すなわち私たちは、この二つの極のあいだを揺られながら中途半端に生きています。ただ日々を穏やかに過ごすことを望む中間性の理論を、ふつうのひとたちは多かれ少なかれあるいは無意識のうちに信奉して生きているのです。

 

ところで、科学的知識は確実なものに思われます。

しかし、「科学の学説は、暫定的に正しいと信じられている仮説に過ぎない」とポアンカレが言っています。

大学の数学教師がおっしゃっていたことで印象深い話がありました。

学問の底の方には暗い穴がぽっかりと空いていて、そこを過去の偉大な人々が埋めてくれているお陰で現在の科学ならびに現代生活というものが存在できているのだと。

しかしその穴のすべてが埋まっているわけでないこともまた確かなのだと。

先達の必死の努力があってもなお、いまだ分からないことがあり、分かったこともその基礎が完全に盤石であるとも限らない。

 

「確かなもの」を求めていくうえで得られた確からしさは、ひとまずのものだということです。

 

このように見てくると「確かなもの」などどこにもありはしないように思えてきます。

 

言うまでもなくひとつだけ「確かなもの」があります。

それは「誰もがいつかは死ぬということ」です。

しかしそんなことを心のよりどころにすることはできません。むしろ不安の根源的な源泉でしょう。

 

なにひとつそのほかに「確かなもの」が無いなかで何とかして「確かなもの」を探し求める。それが私たちに残っている道です。

 

 

*1…柱の上で単独で修行するキリスト教の修道士。

 

 

文章:増何臍阿

 

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/52096650534/e70ffcfdf1/

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