コラム

『北の無人駅から』(北海道新聞社)

『北の無人駅から』

 

筆者は、北海道に特別興味を持っているわけではなく、鉄道ファンでもないのですが、「これは読まなければならない本だ」と本書を一目見て思いました。

 

本書はたんなる紀行文ではなく、鉄道本でもありません。

 

無人駅となった駅を端緒にして、その土地に住む人たちにインタビューをし、さまざまな歴史的な文献を多数ひもといて、北海道の歴史・文化・農業・漁業・ひとの新たなる側面を見せてくれるノンフィクションです。

 

著者は地元に住む人たちにインタビューするのですが、とても細かいところまで聞いていて、大きな信頼を得なければ聞けないようなことまであり、著者の行動力とコミュニケーション力のすごさが実感されます。

 

「豊かな自然」「のんびりおおらか」といった紋切りのイメージで北海道を語るのではなく、地方自治、過疎、農政、悲惨な開拓史といった様々な問題を、上から抽象的に語るのでもありません。

実際に足を運び、その土地に根差した暮らしをしてきた人たちを取材し、綿密な実地調査をもとに北海道の本質を浮かび上がらせる文章を書く著者の力量はすごいものです。

 

北海道というローカルな題材でありながら、日本の地方が共通してかかえる問題をあざやかに剔出しており、普遍性をもちえています。

 

各章の終わりには付録として、様々な用語の解説がとても親切丁寧に載っています。

 

分厚さに驚かされますが、細部がひじょうに面白いので読むのが楽しい本です。

 

日本の忘れられたものたちを想起させ、それらが現在と深くつながっていることを、よりよく知ることのできる良書。

 

おすすめです。

 

文章:増何臍阿

関連記事

  1. クリエイティブ系B型就労継続支援施設の実際
  2. イマニュエル・ウォーラーステイン『アフターリベラリズム 近代世界…
  3. ラーゲルクヴィスト『バラバ』のご紹介
  4. 不思議な話『ポテトチップスが一瞬にして消えた』
  5. ウェルビーイング
  6. 【いきもの】『外来生物』を悪者扱いしないで!
  7. ショートショート『近未来の高齢者の行く先』
  8. 小説:『君と共に生きられたら 上』

おすすめ記事

障碍者種別を限定することによる当事者へのメリット、デメリット

 障碍者の福祉事業所では全ての種別の障碍者を受け入れる事業所が多数派を占めます。どの…

生き抜く力

意欲を持って生き抜くために、人生、楽しみがなければならないと思います。美味しいものを食べる喜…

悔いなく生きよう

誰でも出来れば後悔はしたくないもの。こうすれば良かった、あんなことしなければ良かったと。…

障碍者雇用の基礎

  障碍者枠とは何ぞや、そういう疑問を抱いている従業員も少なくない。一部では障碍者を…

『比べる必要なんてない』

他人と比べる必要なんてない。あなたは、貴方自身……

新着記事

PAGE TOP