コラム

映画『ファントム』のご紹介

 

『ファントム』(1922)は、F.W.ムルナウによる無声映画です。

古いサイレントフィルムには、失われた独特の輝きがあります。

ドイツ表現主義の巨匠、ムルナウの作品から今回は『ファントム』をご紹介します。

 

はじめに

 

ムルナウ(1888~1931)は、ドイツの映画監督。サイレント時代の巨匠であり、フリッツ・ラングとともにドイツ表現主義映画を代表する映画監督です。

代表作に、『吸血鬼ノスフェラトゥ』、『最後の人』、『サンライズ』などがあります。

 

みどころ

 

ドイツ表現主義とはなんぞや、というのはひとくちには述べることはとても難しいことです。

客観的表現を排して内面の不安など主観的な表現を主な目的とするものです。

ドイツ表現主義は、既存の秩序や市民生活に反抗するものが多く、伝統的な芸術表現を破壊しようとするものでした。

 

これ以上深入りすることは避けて、作品の内容に目を向けます。

 

原作は、ノーベル賞も受賞した、ゲルハルト・ハウプトマン。

 

この映画の主人公ローレンツは役所のつましい職員であり、薄給で寝たきりの親を養う、詩人としての成功を夢見る青年です。

 

ある日街で見かけた富豪の娘にひとめぼれし、それ以来彼女の事で頭がいっぱいになり仕事が手につかなくなってしまいます。

自分とはつりあいのとれない相手への恋を、その娘によく似た悪女に貢ぐことでローレンツは転落していきます…

 

サイレント(無声)映画なので俳優たちの声はありませんが、美しい音楽がかえって表現を違ったかたちでひきたてるところがあります。

 

主人公と悪女が堕落した関係を結ぶ様が、回転テーブルに座った二人がぐるぐると下に吸い込まれていくような映像で演出されるように、心理的・内面的内容が、新しく生まれた映画技術によって、超現実的に表現されています。

 

こうした演出は、その後ハリウッドに渡った製作者たちによって、ホラー映画やフィルム・ノワールへと受け継がれていきます。

 

 

さいごに

 

ストーリーが象徴的なかたちで進んでいき、味わい深いラストへと収斂します。

 

現代のわたしたちには、かえって新鮮さを感じる映画だと言えます。

ぜひともおススメしたい映画です。

 

 

文章:parrhesia

関連記事

  1. 2024年の選抜出場予想
  2. 物語の一巻目を簡単に解説! 第九回【ひまわりさん】
  3. 佐藤優, 池上和子『格差社会を生き抜く読書』(ちくま新書):ケア…
  4. 物語の一巻目を簡単に解説! 第六回【八十亀ちゃんかんさつにっき】…
  5. 人の苦しみのわかる人に
  6. 読書セラピー
  7. ジル・ドゥルーズ『記号と事件』河出文庫
  8. 悪夢からの解放

おすすめ記事

金持ち家の子が不良化し、社会的行動することへの批判

初めに 一時、マイルドヤンキーと言う言葉がメディアに取り上げられましたが、今回は…

ラーメン店「メンヤニューオルド」の感想

*画像は実際のものとは異なります2022年6月8日にオープンした、メンヤニューオルド(ラーメン店…

脳性麻痺があっても前に進み続ける

 脳性麻痺であっても高校に通いたい、そんな夢に挑戦している一人の若者について取り上げ…

怖い話『増えた死体』

ある昼下がり。とある小さな町の駐在所に、一人の男が飛び込んできた。隣に住む親…

中島義道『ウソつきの構造 法と道徳のあいだ』角川新書

中島義道『ウソつきの構造 法と道徳のあいだ』角川新書   緩やか…

新着記事

PAGE TOP