東中竜一郎『AIの雑談力』
本書を読むと、現時点ではAIと人間の会話が成立するまでに至っていないということが理解できるでしょう。この本は、人間同士の会話と同等の雑談力を身に付けたAIの完成を、目標に掲げながら、制作する側の視点で構成されていました。
AIでは、対話中の文脈とは違った返答がしばしばなされるため、言葉のキャッチボール自体が不自然になってしまうことが起こるとのことです。
著者は、そのことを称して「会話破綻」と呼んでいます。
「会話破綻」を起こさないための工夫を施す作業に従事した著者は、約20年間程、こうした研究に携わってきたようですが、この20年間に試行錯誤してきた体験を一冊の本にまとめた集大成が本書だと言えましょう。
著者によれば、現在、AIとの雑談が成立する具体的な解決策を提示できるまでには至ってないとのことですが、将来的に優秀な機械学習(ディープラーニング)システムが開発されて、人間との簡単なやり取りが可能なAIが登場してくるのも、時間の問題だと結論付けていました。
たとえば、「アレクサ」などのスマートスピーカー群が、人間のパートナーに進化した世界観が実現した社会と申しましょうか。それは、あたかも映画『2001年宇宙の旅』で、コンピューターHAL9000が人間との対話をスムーズに行えていたような世界観で、現代の用語で言えば、『シンギュラリティ』と呼ばれる現象のことですね。
そうしたテクノロジーが人類にもたらされる日は目前に迫っていると、著者はご自身の研究の成果も踏まえながら近未来を楽観的に予測していました。
*シンギュラリティ:『人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のことをいう。米国の未来学者レイ・カーツワイルが、2005年に出した“The Singularity Is Near”(邦題『ポスト・ヒューマン誕生』)でその概念を提唱し、徐々に知られるようになった。』(シンギュラリティとは – コトバンク より)
文章:justice