父親に不動産事業の投資に失敗し、3000万円の借金を抱える。父親が自分で返してくれればよかったのだが、借金を抱えた直後に癌で病院に運ばれてしまう。入院中の男に返せるはずもなく、娘が借金を返済せざるを得ない状況に陥った。
彩佳は借金返済のために懸命に働いた。会社の仕事だけでなく、自宅においてもお金稼ぎに取り組む。睡眠時間は一日平均で3時間しか取れなかった。
借金を6年ほどで返済し、これから貯金生活を送れると思っていた矢先の出来事だった。彩佳は自宅でばったりと倒れてしまった。すぐに救急車で運ばれたものの、帰らぬ人となってしまった。
彩佳の死因は過労だった。働きすぎていたため、いつ倒れたとしても、おかしくない状況だったのである。
28歳で帰らぬ人となってしまった女性は、自分の死体のむくんだ顔を見つめる。実年齢は50歳ではないかと思えるくらい、ふけてしまっているではないか。これを見て、28歳と思う人は誰もいないだろう。
あの世で何をしようかなと思っていると、目の前に魔女が現れた。
「28歳であの世に旅立つなんて、運のない人ですね」
魔女は他人の不幸をあざけわらっているかのようだった。内心ではバカな女と思っているのは明白だった。
「あなたのおとうさんは、一週間前に旅立ちました。借金の相続を放棄すれば、あなたは働く必要はありませんでした」
私の借金返済の日々は無駄だったということか。そのことを知り、全身の力が抜けるかのようだった。
「父親のために他界した女性にチャンスを与えましょう。あなたには異世界で第二の人生を送っていただきます」
「異世界ってどんなところなの」
現実世界では話すことができなくとも、あの世では口を開けるようだ。
「摩訶不思議なことが起きるところです。日常生活に退屈している人におすすめですよ」
父親の借金返済のために、二〇代のほとんどを無駄にしたうえ、あの世にも旅立ってしまった。彩佳は大人の楽しみを体験する機会を与えられなかった。このままでは悔やんでも悔やみきれない。
「第二の人生を送るために、異世界に転生して差し上げましょう」
魔女はユラリラサラサラマツタケイノシシという呪文を唱えていた。あまりにも変なので、笑いをこらえるのに必死だった。
魔女が呪文を唱え終わったときには、光景が変わっていた。どうやら、異世界に飛ばされてしまったようだ。
*不定期更新になります。(世界観については考えていません)
文章:陰と陽
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