家族でテレビを見ている時に、わたしがまだ生まれる前、姉がまだ幼い頃の話になった。
その頃の我が家では、小型のブラウン管テレビをタンスの上に乗せていた。
リモコンなどない時代だ。
姉は手が届かないので、チャンネルを変えたい時はいつも父か母に頼んでいた。
お昼近く、母が買い物に行こうと姉に声を掛けた。
姉はテレビを見ていたいから、留守番してると言った。
子供向け番組を食い入るように見ている姉を置いて、母は買い物に出かけた。
買い物から戻ると、姉はまだテレビを見ていた。
ただ、テレビのチャンネルが変わっていた。
変に思った母は、
「どうやってチャンネル変えたの?」
と聞いた。
すると姉は、おばちゃんが来たと答えた。
姉によると、母が出かけた後すぐ、玄関の扉が開いた。
女の人が玄関で履き物を脱ぎながら、
「お母さんは?」
と聞いてきた。
「お母さん、買い物行ってる」
と答えると、その人は当然のように上がり込んできて、しばらく一緒にテレビを見たあと、「またくる」と言って、帰ってしまった。
「あの人、親戚かなんかじゃないの?」
姉はてっきり、親戚か母の知り合いだと思っていたが、それきり見ていないという。
「誰だったんだろ?」
ふたりは首をひねった。
文章:百百太郎