残業を終えたわたしたちは、帰宅を急いでいた。
今日は夜から天気が崩れるという予報で、みな雨が降らないうちに帰りたい一心だった。
階段の踊り場まで来ると、夜勤出社らしき人がそこに立っていた。
その人はカッパを着てずぶ濡れだった。
それを見たわたしたち残業組は、
「もう降っているのか」
と、おのおのロッカー室に引き返し、置き傘を取りに戻った。
わたしがロッカー室を出ると、先に傘を持って出て行った人がすごすごと戻ってくる。
「どうしたんですか?」
「雨降ってないよ。降った形跡もない」
「じゃあ、さっきの人は?」
ずぶ濡れの人が立っていた辺りを見ても、そこは濡れてもいなかった。
文章:百百太郎
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