サスペンス・ホラー

怖い話『わたしの部屋はどこ?』

 

一週間ほど入院したときのこと。

わたしの病室のある階は、わたし以外にはお婆さんが入院しているだけだった。

 

そのお婆さんは少しボケてしまっているようで、いつも夜中に部屋を間違えてドアを開けにくる。

最初は驚いたが、やがてそれも慣れ、お婆さんがくるたびに、

 

「お部屋はお隣ですよ」

 

と声を掛けていた。

 

その晩もまたドアが開き、お婆さんが覗き込んできた。

わたしはいつものように、

 

「お部屋はお隣ですよ」

 

と声を掛けた。

 

だがその時は、しばらくドアのガラス越しに、廊下をひたひた歩き回るお婆さんの影が見て取れる。

 

「違う、違う、ここじゃない・・・、わたしの部屋はどこ?」

 

などとつぶやく声も聞こえてくる。

 

  • あのお婆さん、いよいよ末期か・・・ -

 

やがて声もしなくなり、ようやく静かになったと、わたしは眠りについた。

 

朝になって看護婦さんが、お婆さんの病室の片付けをしていた。

その看護婦さんによると、お婆さんは昨夜、容体が急変し、そのまま亡くなったということだった。

わたしの部屋を覗きに来た時間には、お婆さんは霊安室に移されていたという。

 

文章:百百太郎

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f6/photo/6181304095/ceb5edf860/

 

関連記事

  1. 怖い話『拝まれた』
  2. 怖い話『二階の子供』
  3. 怖い話『窓の外から笑うもの』
  4. 怖い話『ジロジロ見るんじゃないの!』
  5. 怖い話『床に寝そべる子供』
  6. 怖い話『手が届かない』
  7. 怖い話『とある砂浜での出来事』
  8. 怖い話『お迎えにあがりました』

おすすめ記事

体育会系の人間は、支援員に向かないのではなかろうか。

 体育会系の人間は支援員に向かないのではなかろうか。 筆者はこれ…

『そんな思いしか…』―本当にかわいそうな人間と思ってしまうよ―

意見の食い違いが…理由で…相手を嫌いになるこ…

世界の国と国旗☆第25回目 エジプト・アラブ共和国

皆様こんにちは!椎名 夏梨(しいな かりん)です。第25回目…

『こんな世界になるなんて…』―自由にできない世界―

こんな世界になるなんて…誰も思っていなかった。…

『時間が掛かった…』

決断をするには、時間が掛かった。けど…決断を…

新着記事

PAGE TOP