コラム

小説:『彼女との約束(3)』

 

前回まで

小説:『彼女との約束(1)』

小説:『彼女との約束(2)』

 

前回からの続き

 

 初土俵を迎える

 

 五月場所を迎え、夢桜の関取への道は幕を開けることとなった。

 序の口はスポットライトの量が少ないと訊かされていたけど、その通りだった。テレビで見ていた光景とは明らかに異なっていた。

 番付が一番下である序ノ口では八時半から相撲を取る。序二段、三段目、幕下、十両、幕内と番付が上がるほど、取り組みは遅くなる。

 初戦の相手は麗桜。対戦時の成績は七〇連敗を記録中。過去には一一〇連敗を成し遂げるなど、序の口の最弱力士として君臨している。通算成績は九勝二三〇敗で、大序ノ口の異名を持っている。

 九勝のうち七勝は不戦勝なので、実際に勝利を収めたのは二番しかない。麗桜にどのような力士が負けたのか、大いに気にかかるところ。

 最弱力士といわれているだけあって、ひ弱そうな体格をしていた。中学生横綱であったとしても、簡単に勝てるのではなかろうか。見た目からして、相撲力士の体格にふさわしくない。

 序ノ口においては全休しない限り、前相撲に落ちないというルールがある。全敗を続けたからといって、降格させられることはない。麗桜のように連敗を重ねたとしても、翌場所も問題なく相撲を取れる。

 麗桜の先場所は幸運に恵まれ、不戦勝で2度の勝ち名乗りを受けた。相撲は取らなかったものの、番付を少し上昇させることとなった。

 序の口は特殊な編成を行い、引退者が多く出る場合などは負け越しても番付をあげることもある。上位にいると、3勝4敗の負け越しであっても、序二段に昇格するケースも珍しくない。近年では勝ち越せば、100パーセント序二段に昇格できる。

 麗桜は不戦勝で三勝していた場合、序二段にあがっていたのかな。相撲を取らずに、上に行けるのだとすれば、豪運かなと思える。

 夢桜は最弱力士と名高い、麗桜を一方的に押し出す。相手としては物足りなかったものの、初陣を白星で飾れたことはよかった。

 本番の緊張感は部屋での稽古とは違っていた。一番一番が自分の生活を左右するとあってか、身体はガチガチになっていた。

 初戦を白星で飾ったことで勢いづいたのか、夢桜は初土俵を全勝優勝で終えることとなった。高校時代までの相撲経験はなかったものの、上出来といえる結果を残した。

 序の口の優勝賞金は一〇万円。金額としては少ないけど、ちょっとばかりの祝い金をもらうことが出来る。

 幕下以下においては、全勝を大きく優遇するシステムを採用。七勝と六勝一敗では番付の上げ幅は天と地ほど異なる。序二段、三段目の人数は多いものの、全勝することにより、一場所で突破できる。

 幕下においても全勝優勝の恩恵は大きくなっている。一番下の番付に位置していたとしても、全勝することで一気に十両を狙えるところまであがっていく。二場所連続で全勝すれば、確実に関取に上がれる。

 

 序二段、三段目で優勝

 

 夢桜は序二段、三段目においても全勝優勝を飾ることとなった。

 三場所連続で全勝したため、番付は加速度的に上がった。初場所は幕下の十五枚目以内に名を連ねることとなった。

 幕下の一五枚目以内は全勝することで、十両に昇進可能。関取も見えてくることから、俗に幕下上位と呼ばれる。

 幕下に上がったことで、部屋における扱いも変わった。ちゃんこ番に割り振られる回数は大幅に減らされ、相撲に費やせる時間は増えることとなった。

 相撲の世界では料理はうまくなってはいけないとされる。ちゃんこ番は幕下以下の力士によって行われるため、ちゃんこ作りが上手な力士は出世していないということになる。

 糸瀬川のちゃんこの味は大きく変わっていた。沖ノ島が関脇に昇進し、部屋のトップに立った。彼は薄味を好むため、底の見えないようなちゃんこは封印されることとなった。

 三二歳で初めて小結の地位を手に入れた、北東侍については幕内の下に番付を下げていた。小結となった場所で3勝12敗と大負けし、翌場所に平幕に転落。その後も6勝9敗、6勝9敗の成績で幕尻まで落ちてしまった。半年前は十両だった摩天王にも抜かれ、序列は三位に転落した。

 北東侍の成績を見ていると、大相撲の世界は怖いなと思った。勝てば大きく上がっていく一方、負ければすぐに番付を落とす。

 夢桜は三場所連続で全勝優勝を成し遂げたからか、天狗になってしまった。これまでは熱心に取り組んでいた稽古も、手を抜くようになっていた。

師匠や関取からは真面目に取り組むように伝えられるも、うぬぼれていたために耳を貸さなかった。誰よりも強いから負けるはずはないという、過剰な自信を持っていた。

 稽古に熱心に取り組まないまま、時間だけが過ぎていくこととなった。気づけば11月場所の二日前に迫っていた。

 場所前になっているにもかかわらず、夢桜は余裕をかましていた。世界の中で一番強いのは俺様であるという自負を持っていた。

 

次回へ続く

 

文章:陰と陽

 

 

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