サスペンス・ホラー

怖い話『ジロジロ見るんじゃないの!』

 

そのお爺さんを初めて見たのは、わたしが幼い頃の真夏のある日、母の買い物に付いて行った時のことでした。

 

地下道を母と手をつないで歩いていると、脇にしゃがみこんでいるお爺さんがいました。

子供ながらも、そのお爺さんに誰も声を掛けないことを変に思っていました。

 

- 暑いから日陰で休んでいるだけなのかな? -  

 

そう思いながら、そのお爺さんを見ていると、

 

「ジロジロ見るんじゃないの!」

 

そういうと、母はわたしの手を引いて、足早にその場を離れました。

 

そのお爺さんは、わたしが小学生、中学生となってもちょくちょくその界隈で見かけました。

 

その度にわたしは、あの時の母の「あんまりジロジロ見るんじゃないの!」という言葉を守って、お爺さんへ視線を送らないようにしていました。

 

年月が経ち、母も父も年老いて亡くなり、わたしもすっかり高齢となった今でも、そのお爺さんはあの時と変わらぬ姿で、その界隈を徘徊しています。

 

文章:百百太郎

関連記事

  1. 怖い話『わたしも食べたい』
  2. 怖い話『届かないボタン』
  3. 怖い話『二階からの誘い』
  4. ホラー:「光の消えたお化け屋敷」
  5. 怖い話『泣く傘』
  6. 怖い話:『見える人、見えない人』
  7. 創作『空の上からの悪戯』
  8. 怖い話『戻ってきたのは誰?』

おすすめ記事

映画『JOKER』を観て

2019年のアメリカのR-15指定のサイコスリラー映画ですが、舞台となる街は1981…

『乗り越えた先に…』

苦しみを乗り越えた先に…何が待っている。幸せ…

完全禁煙を望む非喫煙者

 近年、全面禁煙を実施する会社が増えてきている。一部には喫煙者であることを理由に、採…

木下武男『労働組合とは何か』岩波新書

木下 武男『労働組合とは何か』日本では労働組合の運動が縮小傾向に…

2020年7月からレジ袋有料化

 来月から環境対策の一環として、レジ袋が有料となります。値段は店によって異なり、2~…

新着記事

PAGE TOP