イマニュエル・ウォーラーステイン『アフターリベラリズム 近代世界システムを支えたイデオロギーの終焉』
初版が1997年の書籍です。
米国の次に日本が台頭してくるという本書の予測は裏切られていますが、全般的には将来の展望をリベラルの衰退という文脈を通して、現状を言い当てている内容であると言えましょう。
本書では、 世界的視野に立って世界の有り様を分析していきます。
主旨としては、覇権争いの結果、米国のイデオロギーが勝利した後、やがて衰退化していく過程にたどり着いた。それが今、ようやく人々の間にも認識され始めているとの現状分析です。
こうした捉え方は、ハンチントンの唱えた多極化の構想とは違っています。
ウォーラーステインによると、世界規模で概観した時に見えてくるものが、民主化の要求が増大しているというのに、平等主義的な基盤整備が一向に進まないと指摘します。これは、先進国の中間層の所得の伸びが発展途上国の人達の所得に反映されることがなかったことからも明らかで、トリクルダウン効果は見込めず、むしろ先進国の所得の伸びに転換されたことによるものだとの認識に至ります。
リベラル的なイデオロギーとは、主権者を人民と見立て、そうした人民による国家の支配によって平等を担保すると言う戦略です。
つまり右派と左派の中間地点に立ったものが『リベラリズム』の戦略で、米国がその担い手であったと言うのが本書での見立てです。
『リベラリズムは中道主義の化身であって、その訴えにはうっとりさせられるものがあった。中略…。リベラルは啓蒙思想の重要な前提を信用した。それは合理的な思想と行動とは救済への、すなわち進歩への道であること、また人間は生来合理的であり、潜在的に合理的であり、究極的に合理的になるという考え方であった。』(P383)
上記に示した考え方が、機能しないのが昨今の状況であり、そのためにイデオロギーの終焉が起きているというのが、本書の主要な論点でした。
20年以上も前に刊行された本ですが、こうしたウォーラーステインの分析は、今でも参考になるべき視点が含まれていると思います。
文章:justice
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