二〇五〇年、高齢者施設では異変が起きていた。入居者が集まらず、倒産に追い込まれる社会福祉法人が増加した。
超高齢社会ゆえに、高齢者の数は充分すぎるほどにいた。ただ、入居に必要な金銭を収められる高齢者が減少していた。非正規社員として働いていた人間は、月々の入居費用を支払うことができなかった。
高齢者の入居条件が厳しくなったことで、敬遠されたという事情もある。問題のある入居者を強制退去させる権利(条件付き)を施設側に与えたため、かなりの数の高齢者が追い出されるようになった。認知症、痴呆症、聴覚障害、視覚障害などの障碍を抱えている、利用者は高確率で施設から締め出された。
民間で参入した会社の一部が懐をにぎわすために、問題行動を防止するための制度を悪用した。大金を入手しようと、入居者を些細な理由で退所させた。そのことが社会問題となり、高齢者は施設に頼らずに生きるようになった。なお、経営者は詐欺罪で警察に逮捕された。
一度失った信用を取り戻すのは難しい。社会のサポートとして機能した、高齢者施設は新たな時代を迎えようとしていた。
*フィクションです。現実とは関係ありません。
文章:陰と陽