エピソード

怖い風が吹く

はじめに

私の妹は、間違いなくもうすぐ二十歳だった。

ある日、家族で夕食をとっていた時のこと。
いつもと変わらない家族、いつもと変わらない座席、何もかもいつもと変わらないはずだった。だが、変わらない夕食の時間は妹の言葉で終わることになった。
「私、まだ残っているって言われた…」
いつもは騒がしい妹がポツリと呟いた。
私を含めた家族の視線が、一斉におかずから妹に向けられた。
「何が残っているの?」
心配した父が聞き返すと、妹はゆっくりとこう言った。
「… にゅうし…」
部屋は驚愕の声に包まれた。
聞き間違いなどではない。妹は今確かに乳歯だと言った。
その日妹は歯医者に、こう言われたそうだ。”乳歯が残っている”と。
確かに妹は中学生に間違われるような容姿をしている。だが、まさかあと一ヶ月程で二十歳になるという妹の口に乳歯が残っているなど誰が思うだろうか。
正確に言うと乳歯の根っこだそうだが、第三者に言わせてみれば、どちらも同じようなものだ。
しばらく驚いた後、私はハッとした。
私もしばしば中学生やら高校生に間違われるが、まさか私にも残っているのかもしれないと。
最後に歯医者に行ったのはいつだったか、もう記憶にはない。あるのは、高校生の時に負ったあのトラウマのみ。仮にもしも乳歯があったのならもう言われているはずだ。
あれこれ考えて不安を打ち消そうとするが、このフィヨルドのような歯からは何も窺い知ることは出来ない。

 

文章:ぴえろ

画像提供元:https://visualhunt.com/f7/photo/6563775587/ce9d908d56/

関連記事

  1. 何歳まで生きたいですか?
  2. 2024年1月場所の十両で特に番付運の良かったと思う力士
  3. 障碍者手帳の恩恵(電車、バス)
  4. 小説:『友達のいない男は、クラスメイトの男性恐怖症克服に協力させ…
  5. コラム:『M君のこと』
  6. 小説:『彼女との約束(7)』
  7. 全休すると番付を元に戻すのは大変
  8. 小説:『知的障碍を発症した女性は、入院先で少女と出会う 上』

おすすめ記事

静岡限定酒の紹介 其1:「寶CRAFT 静岡産三ヶ日みかんクラフトチューハイ』の330mlビン

 『寶CRAFT静岡産三ヶ日みかんクラフトチューハイ』は、日本で初めて缶入りチュウハ…

沖縄観光スポット【ベスト5】④

沖縄を訪れた際、必ず行ってみて欲しい「観光スポット」をご紹介します。…

疲労回復の三原則

休養、栄養、運動が、疲労回復の三原則と言われています。…

心だけは若くありたい

 人間は年を取る生き物。ずっと若いままでいることはできず、一年ごとに身体が老いていく…

「ぜんざい」発祥の地:島根県『佐太神社』紹介

 『ぜんざい』発祥の地と云われる島根県『佐太神社』紹介 島根県松江市鹿島町佐陀宮…

新着記事

PAGE TOP