コラム

映画『JOKER』を観て

 

2019年のアメリカのR-15指定のサイコスリラー映画ですが、舞台となる街は1981年の架空の市で構成されています。

 

あらすじ

 

ピエロの主人公

主人公は優しくて人のいいアーサーです。

年老いた母と貧しい暮らしをしていますが、将来、コメディアンになることを夢見て、派遣会社で道化師として日銭を稼いでいます。

 

退廃した街

ゴッサムシティという架空の市は、政策が破綻していて、清掃局のストライキで街がゴミで溢れかえり、一部の富裕層と多数の貧困層との生活水準の格差と、それがもたらす極度の治安の悪化という大きな問題を抱えています。

 

街の不良少年

ある日、アーサーは派遣先の楽器屋で道化師として看板を掲げて踊っていたところ、複数の若者たちに看板を奪われて暴行を受けます。

 

アーサーの職場

翌日、楽器屋のクレームにより、派遣元の会社の上司に叱られて看板代を弁償する羽目になりました。アーサーの無事を心配する様子もなく、業務や売り上げ優先の零細企業です。

 

銃社会

貧困層が勤める会社はいかにもこのようなブラック企業ばかりだと言わんばかりの描写で、ロッカールームで会社の同僚のランドルから護身用にと銃を半ば強引に受け取ります。

 

精神疾患

アーサーは幼いころから持病を抱えていました。緊張や不安になると発作が起きて突然けたたましく笑いだすという病気です。

そのため周囲の人からは気味悪がられていて、対人関係のトラブルを起こしやすく、アーサー自身も病気がもたらす世渡りの難しさに苦しんでいました。

定期的にカウンセリングを受け、大量の精神安定剤を毎日、服用しつつ、それでもアーサーは気丈にも、一流のコメディアンになれることを夢見て目標に定め、道化師の仕事で食い扶持をつないで生きていくのですが……。

 

感想

 

絶望と崩壊

アーサーの悲運は映画の中で次々と起こります。

この作品の見どころは、優しくて人のいいアーサーが職を失い、追い詰められて咄嗟に殺人を犯してしまい、絶望の中、派手な演出の自殺を企図するも精神に異常をきたして殺人鬼に変貌するさまを演じる、主演俳優のホアキン・フェニックスの怪演だけではなくて、その殺人鬼になったアーサーを、メディアを通じて目撃した貧困層の大衆が“ジョーカー”と呼んで共感を呼び、支持した挙句に街の暴動にまで発展する、社会崩壊という名の浄化の2点だと思います。

そしてアーサーが悪のカリスマ性を帯びるところのシーンをクライマックスに、市の富裕層の名士は次々と殺されていきます。

 

失政の街

言い方を変えると、それほどまでに街は不平に満ちて貧困者で溢れかえり、行政に対する不満が限界まで達していたという背景が見えてきます。

 

まとめ

人は一人では生きていけないものですが、自由主義の名のもとの営利を追求する競争社会で、貧富の差が人々の断絶を生み、行政の医療や福祉サービスの打ち切りにより貧困にあえぐ人々を疎外した結果、救済されることのない大衆の怒りは頂点に達し、暴動を呼び起こしました。

ジョーカーと崇められる悪の権化のアーサーもその一人にすぎず、アーサーの境遇や持病だけでは語れられない犯行の動機に社会の不条理を包含しているところが重要なテーマだと思いました。

ただこの作品は精神疾患を持つ主人公が殺人を犯しやすいという、レッテルを貼られる危うさを持ち、その暴力や殺人や破壊行為を美化しているとの指摘もあり、賛否の分かれる映画になっています。

 

喪われていた父性と家族愛を夢見て、叶わずに絶望した主人公の人物描写を追求することによって、多様性に満ちた社会での平和に満ちた共存には何が大事かと問いかける作品だと思います。

 

 

文章:drachan

 

画像提供元 https://www.pexels.com/ja-jp/photo/2838511/

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