コラム

短編小説:『異常な世界』

 

ここはどこだ?

鍵のかかっていないスクーターがある。

俺はひょいと乗って走り出した。

 

風が心地よい。

 

途中から急にお面白みがなくなり、俺は、元の場所へとハンドルを切った。

帰ると盗まれたスクーターの犯人を捜していた奴に捕まってしまった。

俺は、観念して奴らの思う様にどこかへ連行された。

 

そこは、小さな町だった。

 

俺は小さな川の中に入ってその底にある泥をかきだすよう命じられた。

何故そんなことをしないといけないのかは、よくわからなかった。

他にも同じ様に泥をかきだしている人が何人もいた。

 

皆、黙々と作業をしていた。

 

一日の作業が終わり、俺は、解放された。

明日も同じ作業をするようにと命じられ、ある家人の家に居候することになった。

そこには情報を得る手段がテレビしかなく、雑誌は勿論、本も無かった。

どうやら、これは何かあるなと俺は考えた。

 

知識を得ることを、奴らは恐れているようだと思い至った。

この世界では、自分で頭を使って考えることをしない様に操って、奴隷のようにこき使い、
征服しようとしているのだ。

 

「今すぐここから逃げなければ」

 

俺はそう思い、逃げ出した。

でもどこへ逃げればいいのか。皆目見当がつかなかった。

俺は夜、とある病院へ侵入した。

 

この世界からうまく逃げ出せればいいのだが。

誰も気づくものはいなかった。

 

こそこそと話声が聞こえる。

俺は、聞き耳を立てたが、よく聞こえない。

もう元の世界へは戻れないのか。

 

すると

「ここで何をしている」

俺の後ろで声がした。

 

ああ見つかってしまったのだ。どうすることもできない。

 

俺は観念した。

前の家へ連れていかれた。

目覚めると、また、昨日の作業を続けるように命じられた。

こんなことが一生続くのかと思うと、俺は、やりきれない思いに駆られた。

 

ああ元の自由な世界に戻りたい。

はかない夢だった。

俺は、絶望した。

希望なんて何もない。

これが夢であったならと思うばかりだった。

そういう夢を見てしまった。

恐ろしい夢だった。

 

あの世界が現実にあったとしたら、空恐ろしくなった。

夢であって良かったと俺はつくづく思った。

 

 

文章:シャーペン

画像提供元 https://foter.com/d/d.php?f=https%3A%2F%2Flive.staticflickr.com%2F110%2F300996746_86e379f1c8_c.jpg&s=da4533443ce2080158bfb29815b95a29

関連記事

  1. 小説:『自分の道(5)』
  2. 「年寄り」は免罪符か?
  3. 小説:『出会いはどこから転がり込むかわからない 上』
  4. 多様性という「お題目」
  5. 【第二回】『マーケット感覚を身につけよう』
  6. 選抜の枠が変更
  7. 怖い話:『誰かに呼ばれた』
  8. 病の原因

おすすめ記事

ショートショート『高齢者施設に変化』

  二〇五〇年、高齢者施設では異変が起きていた。入居者が集まらず、倒産に追い込まれる…

欲望に振り回されるな

人間の欲望にはきりがありません。その欲望に振り回されて、不幸になる人が多いと思うのです。…

怖い話『真夏のサンタクロース』

子供のころのこと。小学校低学年くらいだったと思います。真夏の夜で…

『新しい環境』―全ての感情をそのまま受け入れよう―

新しい場所は…不安。緊張。…

京阪電車の2022年の正月ダイヤが発表

 京阪電車の2022年の正月ダイヤが発表 正月ダイヤについて…

新着記事

PAGE TOP