コラム

短編小説:『ふしぎなおとしもの』

 

町を歩いていると、おかしなものを見つけることがある。

 

ある時は、橋のたもとに一足のちいさな靴がきちんと揃えられて置かれていた。

またある時は、川(川幅は3、4メートルほど)に赤い布団が投げ捨てられていた。

またある時は、線路沿いに1メートルを超えるテディベアがたたずんでいた。

 

これらはいわば違法に捨てられたごみなのだが、食品のプラスチック容器とか

タバコの吸い殻とかとは違って、無造作に投棄されたというものではない。

ポイ捨てしたという感じがまったくしないのである。

投棄物たちがなにか奇妙な趣きとでもいったものを醸し出しているのだ。

 

先日、町を歩いていると道端にどんぐりが落ちていた。

はて、季節は夏真っ盛りのいま、どんぐりが落ちているなんておかしい。

 

そのどんぐりは、よく見ると普通のものよりうっすらと黄味がかっていて、見ようによっては黄金色に見えないこともなかった。

わたしはなんとなくそのどんぐりが気に入り、家に持ち帰ることにした。

 

 

それからのわたしは数々の幸運に恵まれる。

 

遠い親戚から遺産が転がりこんできたり、家族や友人や職場の同僚の機嫌が良くなったり、

かねてからの持病の症状がやわらいだり、下半身が元気になったりした。

 

わたしはこれらの幸運を、道端で拾ったどんぐりと結びつけて考えるようになり、旅行先の土産物店で見つけたちいさな木箱に入れて、机の引き出しにひっそりと大事にしまっていた。

 

 

歳をとり、わたしは不治の病にかかった。

 

あのどんぐりの入った木箱を開けてみると、黒ずんであの輝きは失われていた。

わたしはどんぐりを捨てた。

 

まもなく、意識が遠のいていった。

 

 

文章:増何臍阿

 

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