夜明け前に事務所に帰ってきた。これから日報を書かなきゃならない。
トラックで建設残土を山に捨ててきたのだ。
世の中には適法にやっているところもあるのだが、コストを抑えたい建設会社などがうちのところに持ってくるのだ。
うちは格安で廃棄を請け負う。人件費をピンハネしているのだ。
適正な価格を顧客に要求などしたら、仕事が回ってこなくなる。
ある日、社長が神妙な面持ちでおれに話しかけてきた。
「ドラム缶の処分だ。大切なお客の頼みなんだ。」
やたらと重いそのドラム缶を運んできたのは、ひょろりと背の高い気の弱そうな青年だった。
そのスジの人間でないことは分かったが、その青年も単に押しつけられただけの人間なのかもしれなかった。
おれはそのドラム缶を、東北地方のある山中に捨てた。
それから数年が経ったときのことだ。
おれは定食屋で焼き魚を箸でつついていた。
何気なくテレビを見やると、組織の末端の構成員が麻薬取引で捕まったというニュースをやっていた。おれは目を見張り息をのんだ。
その逮捕された男が、著しく人相が悪くなってはいるものの、あのドラム缶を運んできた青年そのひとだったからだ。
間違いなかった。
それからというもの、おれは恐怖で老け込んでいった。
あのドラム缶はいったい…
文章:増何臍阿
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