出典:Photo credit: bradleygee on Visualhunt.com
野球場の通路に、赤い法被を着た若い男の売り子が、座り込んでグデーとなっていた。
人が通りかかると「・・・ああ・・・、あ、あ、あ・・・」と白目をむき、震える手で、かっぱえびせんの袋を差し出す。
その様子はまるで、『死にかけてます。声も出ません。だから買って!』と言いたげ。
みんなが無視して通り過ぎる。
変な売り子がいるなぁ。面白いなぁと思いながら、わたしは遠目から眺めていた。
そこへ大きな歓声が聞こえてきた。
わたしは試合の様子を見に、一旦そこを離れた。
しばらくして戻ると、あの売り子はいなかった。
やがて試合が終わり、帰路につく。
バイト売り子たちも売り上げ精算に店の前に並んでいた。
その時、売り子たちはみんな、黄色い法被を身にまとっていることに気付いた。
赤い法被の売り子はどこにもいなかったのだ。
もしかしてあれは、死にかけではなく、とっくに死んでいたのでは?
文章:百百太郎