コラム

スタンレー・ミルグラム『服従の心理』河出文庫

 

スタンレー・ミルグラム『服従の心理』

 

本書で検証されるところのものとは、人間が権威に対して盲目的に服従する傾向があるということです。

そのことを著者はある実験を通して、本書の中で実証していきました。

 

さて、戦時という状況下における兵士による殺傷行為やナチスによるホロコーストなど、たとえそれが非道徳的な命令であったとしても、命令を受けた者は否を唱えることができず、それを遂行してしまうのは何故だろうか?

 

民主主義がある程度機能しているといわれる国においては、絶対的権力者による独裁政治は起こり得ないはずですし、またそれは過ぎ去った過去の話のように聞こえてきますが、少しここで話を現在の状況に適応する言い方に変えてみます。

 

 

「正当と呼ばれている権威の指示の下、各個人は己の倫理的格律に従うべきなのか?あるいは、権威の支持に従うべきなのか?」

 

 

上記に記したように、本書の示した問題提起は、現代においても、人間の社会関係の中に深く根付いているものといえましょう。

 

ある社会的規範がヘゲモニーを握っている場合、それを体現した上位者の指示に従うことは、そこでの服従者にとって、「自己責任を喪失」した状態に置かれていることを意味します。

ですから、権威者である個人の命令に従っているというよりも、服従者としての意識としては、権威そのものの中に備わっている社会構造に統合されているといえます。(服従者がもはや逃げ場を失っていると規定しているからです)そこでは、個別性よりも地位や立場が先行します。

 

服従者が権威者の代理人(エージェント)として振る舞うことを容易にする構造に絡み取られる前段には、自律的行動の他に、システムの中にあるヒエラルキーを固定化することで社会構造の安定感に寄与するという要因も備わっています。それでですが、服従者はどちらかといえば後者の方を選択します。

その際、行動に対する自己責任が同時に放棄されるに至るわけです。

 

『エージェント状態への移行の結果として最も大きいのは、その人は自分を導く権威に対しては責任を感じるのに、権威が命じる行動の中身については責任を感じないということだ。(中略)…。

権威の命令で何か凶悪なことを行った個人に対する最もありがちな擁護は、そいつは単に自分の責務を果たしただけなんだ、というものだ。この擁護論では、別に何かアリバイをその場ででっちあげているわけではなく、権威への服従が生み出した心理的態度を正直に述べているだけだ。』(P210〜P211)

 

文章:justice

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