ちきりん『マーケット感覚を身につけよう』ダイヤモンド社 の紹介
本書は、「マーケット感覚を身につけること」がこれからの世界を生き残る重要事項であることを示し、そのための具体的な方法について次の5つを提示しています。
- プライシング能力を身につける
- インセンティブシステムを理解する
- 市場に評価される方法を学ぶ
- 失敗と成功の関係を理解する
- 市場性の高い環境に身を置く
第三回は、「3.市場に評価される方法を学ぶ」についてご紹介します。
市場に評価される方法を学ぶ
「組織」と「市場」の意思決定スタイルの違いを理解し、組織ではなく市場に評価される方法を学ぶことが、マーケット感覚を身につけるための3つめのポイントです。
これまで重要な意思決定は、国や地方公共団体、業界団体や企業、学校や家庭など、組織によって行われてきました。しかし、最近は重要な判断が組織ではなく市場のダイナミズムの中でなされることが多くなってきました。
昔は、規格は組織が決定するものでした(例えばJASなど)が、現在ではデファクトスタンダード(市場が決める事実上の標準規格)の方が重要になっています。
また、通貨や決済方法は従来国が定めるものでしたが、現在では多様な決済方法を消費者が選択できる(カード払い、電子マネー決済、ポイント決済、QRコード払いなど)うえ、通貨についても、暗号通貨のように国家という組織の裏付けを持たない貨幣が事実上流通し、これが将来デファクト通貨となる可能性を秘めているし、巨大IT企業の発行する貨幣やポイントが金融の世界を変えることは必至です。
このように、重要な意思決定や判断が市場のダイナミズムのなかで行われる世界では、市場に選ばれ市場に評価されることがとても重要になってきます。
著者は、変化の激しい旅行業界を挙げて、組織と市場のスタイルの違いを明確に示します。
ウェブサイトというものが無い時代、旅行客はガイドブックを参考にしたり大手旅行代理店の情報のみを頼りに旅行プランを練っていました。そのため、旅館やホテルなど宿泊施設は、旅行ガイドを出す出版社や旅行代理店の評価を高くすることに経営の主眼を置いていました。大々的に広告をうつことのできる大きな宿泊施設しか、旅行客の目にとまらなかったのです。
しかし、ウェブが登場して、小さな宿でも検索エンジンに見つけてもらえたり、ネット予約サイトはガイドブックと異なり載せる情報の制限が無いため、あらゆる条件に合う宿が市場に浮き上がってきました。市場のニーズを敏感に捉えられるところが急成長する宿があるいっぽうで、苦戦を強いられるかつての巨大施設もでてきました。
組織における意思決定は属人的なものであり、そのキーパーソンに気に入られることが出世の近道などと言われてきました。しかし、市場における意思決定は多様なニーズがしかも大変速いスピードで変化するなかでなされるため、そこで評価されるのは難しく時間がかかるからこそ、早くから市場で選ばれるため試行錯誤を繰り返してきた宿泊施設が、現在とても好調なのです。
組織型の意思決定では、その組織内で商品やサービスの「作りこみ」をしてからそれを世に問います。
しかし、変化のスピードの速い世界では、その「作りこみ」をしている間に人々のニーズが変化してしまい市場環境が全く変わってしまうことで、全く売れないということが起こります。
そのため、「作りこみ」ではなく、「まずやってみる」方式が良い、と著者は言います。
まずやってみて、それを市場に公開し反応を見てから、トライアンドエラーを繰り返して、そのクオリティを高めていく方法の方が、迅速な意思決定と素早い行動力がキーとなる世界においてはより良いのです。
次回は、「4.失敗と成功の関係を理解する」についてご紹介します。
https://www.diamond.co.jp/book/9784478064788.html
©マーケット感覚を身につけよう | 書籍 | ダイヤモンド社
文章:増何臍阿
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