コラム

フランツ・カフカ『城』前田敬作【訳】新潮文庫

 

フランツ・カフカ『城』

 

①そこにいる人間

②そこに属している人間

 

私たちが暮している世界とは、1と2が重ね合わさっている状況の中で、与えられた個々の記号(職種や資格)に基づき、人々と役割り分担しながら、協同していく社会です。また、そのように措定することで、網の目のように張り巡らされた複雑な現代社会の仕組みに意味を見出すことによって、それぞれが違った配役を担いながら、生を営むことができています。

 

ところで、カフカ『城』に登場する主人公は、その範疇からはみ出して生きているため、人々から疎外された生き方を強いられています。

このような在り方は、実存主義と呼ばれていますが、人間を集合の中の一個人としての在り方で捉えるのではなく、どちらかと言えば、人間の自由意志を出発点として見ていく考え方です。

 

『城』に出てくる役人や従僕などは、ただの職業人間として描写されます。つまり、社会システムの中から発せられた命令を、与えられた自分の役割に基づいて忠実に実行するだけの機械人間に愚しています。そこには、一片の良心も働いていませんでした。

 

『現代社会の律法は、人間が自己自身の本来性を保持することをゆるさない。現代社会は、その経済的機構の不可避的な帰結として、人間を「自己疎外」の状態におとしいれた。人間を社会という巨大なメカニズムの中のたんにひとつの歯車たらしめることによって、人間を徹底的に機械化し、抽象化し、非人間化してしまった。人間とは、すでに一個の歯車、職業という形で受けもたされているひとつの機能にすぎない。』(訳者あとがき P626より)

 

文章:justice

関連記事

  1. プロ棋士を生で見た感想
  2. 「道を訊く」エピソード三選
  3. ショートショート『空から偽札が舞い降りてきたら』
  4. 物語の一巻目を簡単に解説! 第五回【こじらせ百鬼ドマイナー】
  5. 小説:『彼女との約束(7)』
  6. 焦らないようにしよう
  7. 2023年11月場所の十両番付予想(2023年9月場所の成績に基…
  8. ショートショート『夢の中の衝撃的な出来事』

おすすめ記事

『キャンディー』―あなたの笑顔が世界一好きー

泣いたあの日の事覚えている?大粒の涙を流していた君。&nbs…

安直なツールとしての「蛙化現象」

言いたいことを、あらかた全部こっちのブログに書いているので、自分の個人ブログに書くネタがありません(…

落ち着いた、ニャー

『たぶん  猫好きだと思う人の行動』漫画:P…

ホラー:「光の消えたお化け屋敷」

 お化け屋敷といえば怖さを演出するために、真夜中の電気を消した状態に近づけます。人間…

本当に大切にしてくれる場所を探そう

出典:Photo credit: blavandmaster on VisualHunt障碍者は…

新着記事

PAGE TOP