浜矩子,城繁幸,野口悠紀雄,ほか『日本人の給料 – 平均収入は韓国以下の衝撃』
それぞれの識者が共通の認識として持ち合わせているのは、バブル期以降「日本人の給料が上がらない」という深刻な課題です。
識者ごとに専門分野が異なるため、課題に取り組む際の視点は違っていますが、この本では各識者ごと個別にインタビュー形式で回答を求めており、読者は自身の興味や関心のある視点を探しながら読む楽しみ方もあります。
ここでは、ワンポイントにて各識者の論点の概要を紹介するに留めます。
これを読んだ読者の中で、少しでも興味を抱いた方がいらっしゃれば、「自身の給料がなぜ上がらないのか」を探求する上で、最も共感できるであろう識者の見解から学びを深めていってくだされば幸いです。
坂田拓也(フリーライター)
各国の給料事情を紹介しており、日本は諸外国と比較して「年功序列型賃金が維持されている』との指摘。
北見昌朗(北見式賃金研究所所長)
消費税の影に隠れ、社会保険料の負担が増えた(国民負担率)ことで手取り収入が下がった。
城繁幸(人事コンサルタント)
低成長が続いているのにも関わらず、未だに終身雇用・年功序列制(特に大企業)が維持されている。これからは、ジョブ型雇用を取り入れることが必要である。
脇田滋(東京都立大学教授)
法人税の減税があったが、企業がその恩恵を従業員に還元する前に、不況を乗り切るための手段として「内部留保」を積み増すことを優先した。そうして内部留保した資金は外国人投資家へと流れていったため、トリクルダウンは起きなかった。
野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)
日本人の給料が他国に比べて上がらないのは、デジタル化が遅れているからだとの指摘。
硬直した組織風土が居座り続けているため、デジタル化が進まない。デジタル化するための布石として、国家が個人のプライバシーを管理しないための工夫が必要である。
個人情報を紐付けできないシステムの構築が必要で、具体的にはブロックチェーンを活用してデジタル化を推進していく必要がある。
浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)
アベノミクスの偽善性を指摘。著者によれば、ヒトのモノ化に貢献したために、「アホノミクス」と改名されました。つまり、人件費を原材料と同様の扱いにしたことが給料が上がらなかったと切り捨てています。
神津里季生(日本労働組合総連合前会長)
1995年に日経連と言う団体が、「新時代の『日本的経営』」を打ち出しことで、非正規雇用が増加したことを指摘。日本の組合制度は、企業別組合のため、業界ごとの活動は分断されている。産業別に動けるような仕組みにすべきである。また、セーフティネットを整備せずに非正規雇用を増やしたことが問題。
江田憲司(立憲民主党・衆議院議員)
大企業と富裕層に有利な税制が格差を拡げたと指摘。
金融緩和で日銀が輪転機を回し過ぎたために金利が下がり続けた。日銀がカンフル剤を打ち続けたため、その副作用として金利がゼロに張り付き、デフレが常態化した。
また、技術革新に結びつく大学での基礎研究も劣化が進んでいる。
以上です。
文章:justice