友人と二人で廃墟団地へ、探検気分で入った時のこと。
各部屋を見て回っていると、マンガやエロ雑誌が放置されている部屋がありました。
わたしたちはその本に見入っていました。
それも飽きた友人が、
「他の部屋も見てくる」
と部屋を出ていきました。
しばらくすると、本に見入っているわたしの視界の端に人影が映りました。
それは窓の外のベランダの縁を、綱渡りの要領で歩いていました。
― あいつ馬鹿なことしてるなぁ ―
などと思っていると、人影が消えていました。
そこは3階です。
そちらに目をやると、縁に掴まっている手が見えました。
― 落ちかけてる! ―
わたしは慌てて駆け寄り、友人を引っ張り上げようとしました。
とっさに掴んだのは髪の毛でした。
しかし、髪の毛がブチブチブチと千切れる感覚がしたかと思うと、友人は落下していきました。
その場に呆然と、ふさぎ込んでいるわたしの背後から、
「どうしたの?」
と、落ちていったはずの友人が声を掛けてきました。
わたしの手には、髪の毛の千切れる感覚だけが残っていました。
文章:百百太郎
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