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本当にそういうことですよね?
ここはとある出版社。何人もの人気漫画家を生み出してきた、素晴らしい功績を持つ会社である。
そんな会社の少年誌編集部では、新人漫画家が担当と言い争っている。
「なんで駄目なんですか⁈」
「いや、だから何度も言ってるでしょ、そういう時代なんだよ。そんな漫画を連載したら色んなところからクレームやら炎上やらで大変なことになるんだよ」
「そんなことを気にしていては人気の作品はできませんよ!皆してクレーム、炎上って。炎上して大変なのは山や森林くらいでしょ!何かが物理的に燃えるわけじゃない!」
そういう新人の方が炎上していると、言いたい気持ちをおさえて担当は言った。
「でも、君の描こうとしているのって…」
「乳首です!」
燃え盛る新人の食い気味な発言に困惑が隠せない担当。漫画家は更に言った。
「少年誌だから描くんでしょう⁈思春期の少年たちに夢を与えるのが我々の仕事なんでしょうが‼『To LOVEる』とかに夢を貰ったでしょ⁈」
「でもねぇ、あれは異例というか、なんというか…」
口を濁す担当に、劫火と化した漫画家は声を張り上げて言った。
「一回とはいえ『ドラゴンボール』にさえそんなシーンあったんですよ‼なのになんでこれが駄目なんですか‼」
「君、もう50回くらいこのやり取りしてる気がするよ。取り合えず、落ち着いてくれる?深呼吸でもしてみようか」
今にも何かに変身しそうな漫画家の背中をさするなり、お茶を入れるなりして何とかなだめた。
「それにしても、エロと芸術の境目ってどこなんですか?」
入れられたお茶を一気に飲み干すと、かなり冷静になった漫画家がぶっきらぼうに言った。
「昔の絵画なんて見てると、全裸だったり上半身だけ服を着てなかったりして、肝心なところがまる見えだったりするじゃないですか。宗教画とか神話の絵だからよかったんですか?」
「そうだねぇ。確かに難しい問題だ。昔は昔でこれはいやらしいなんて言われていた画家もいたようだけれども、今では立派な名画だったりするね」
「いつの時代にもクレーマーはいるんですよ。それを気にしてたら、何も作れません。『こんな絵を見て悪影響が出たらどうするの⁈』なんて、人のせいにしたいだけじゃないんですか?」
漫画家が口を尖らせてそう言うと、担当はコーヒーをすすりながら穏やかだが、どこか鋭さを帯びた声で言った。
「他人のせいにする方が楽だからだろうね」
「あと知っていますか?『不思議の国のアリス』の作者、ルイス・キャロルは少女の写真ばかり撮ってロリコンって言われてましたけど、最近はその写真は前衛的だっただけだと言われてるんですよ。誰が何を気に入るかなんてわかったもんじゃない」
漫画家の言葉に担当は苦笑いをしながら言った。
「確かに誰が何を気に入るか分からないね。あと当時は児童のヌード写真って普通だったらしいよ。今は絶対駄目だけどね。不思議なものだよ、時代って」
「とにかく、僕が言いたいのはやってみないと分からないってことですよ。炎上かバズるかなんて、どっちでもいいです。現在の問題作は未来の傑作です。それに、どんな漫画家でもタレントでも表舞台に立てば一度くらいはボコボコにされるものです。『one-piece』の尾田先生だって、熊本に寄付しただけなのに炎上したんですから。何をしてもクレームはくるんです。それに、僕が炎上しても会社は無傷でしょう?」
「そうだね」
今まで漫画家の熱弁を聴いていた担当が言った。
「どんなことを言われても大丈夫なら、連載してみよう」
漫画家の目がキラキラと輝き始めた。そして立ち上がると大きな声で言った。
「描いていいんですか⁈乳首‼」
「う、うん。試してみよう。打ち切りされないようにね」
「はい‼」
こうして『To LOVEる』以来のハーレム漫画の連載が決定した。
文章:ぴえろ