俺は急いでいた。
ある会合に出席するためだ。
俺は期待されていた。
だが、この頃遊びに夢中になっていて、手つかずになっていた仕事があった。
気にならなかったわけではなかったのだが、
先生に期待されていたのに、その期待を裏切ってしまったのだ。
不安でびくびくしていたのだが、その時は、何も咎められることはなかった。
そして帰ろうとして階段を下りていくと、ある人物が俺の後を追ってきた。
その組織の主任だ。
俺は条件反射のようにその場から逃げようとして走り出した。
奴も俺を追いかけてきた。
奴の手には刃渡り30センチもあろう包丁が握られていた。
「うわー、殺されてしまう」
心の中で俺は叫んだ。
“ブス”
鈍い音がして、俺の肩から血が噴き出した。
「助けてくれー」
傷を負いながらも、俺は必死で逃げた。
――気づくと、奴をうまく撒くことが出来た。
家に帰り、傷の手当てをした。
ホッとしたのも束の間、このままではまたやられると思い、行方をくらまそうと決断した。
それからは、びくびくしながらの生活が日々続いた。
――それから30年が過ぎようとしていた。
結婚して娘もできた。
可愛い一人娘だ。
夜、寝室で休んでいると、娘がやって来た。
その娘の手には刃渡り30センチもあるあの忘れもしない包丁が握られていた。
「やっぱり逃げられないのだな」と、俺は観念した。
「お父さんが悪いのよ」
娘が一言呟いた。
「怠けてはいけないな」
そう言って、俺はもうあきらめて運命に身を任せた。
罪は免れられないものなのだ。
終わり。
文章:シャーペン
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