小説

何事も経験が大事

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ずっと昔から追いかけていた生き物がいた。

存在は確認されているが、捕まえたことのある人は殆どいない伝説で憧れの生き物。

それじゃあ、自分もその中の一人になってやる!そう決意し、捕虫網を手に取って、何年経っただろうか。

いまだに網にかかるのは、もう誰かが見つけてしまって伝説とはかけ離れた生き物ばかり。

諦めてしまった方がいいのか。いや、そんなことは絶対にしない。見つけると決めたのだから、何年経って年老いても、難病に侵されても、身体のどこかが欠けてしまっても見つける。

そう誓いにも似た決意を心に抱いたのだ。諦めるなんてあり得ない。

弱い考えがちらりと頭を横切る度に、緩みそうになった決意を固く締め直すのだ。

よしっ、そうひと声出すと立ちあがって、また捕虫網を片手に走り出した。

それでもやっぱりそいつは見つからない。籠は空っぽのまま。

少し疲れて休んでいたら、そいつが姿を見せた。まるで、捕まえてとでもいうように目の前でずっと止まっている。

戸惑い、疑心暗鬼になりながら網をふり下ろし、そいつに網をかぶせた。

その瞬間、戸惑いも疑心暗鬼も消え、あまりの嬉しさから狂喜乱舞した。そして、恐る恐る網の中に手を伸ばした。

だが、掌が掴んだのはただの空気だった。

驚いたのだろうか。きっと驚いたはずだ。だが、それ以上に感じたのはなんだったのだろう。

それによく見ると、持っていたはずの捕虫網がない。籠も。自分には必要な物が何一つなかったのだ。

感じたことはなんだろう。何も持っていなかった自分への怒りか、それとも幻を見てしまう程の精神状態になっていたことに対する絶望か、突きつけられた厳しすぎる現実への悲しみか。

どれもそうでどれもそうじゃない。矛盾した言葉だ。だが、そんな矛盾の中で確実に一つ言えることがある。虚ろだ。自分は空っぽになってしまった。

喜びからたたき落された時に、全ての感情が勢いよく流れ込んで出て行ってしまった。だから空っぽなのだ。

何もない。これからどうしよう。どうすればいいのだろう。空っぽの今の自分にはわからない。

元に戻ったら分かるだろうか。そしてまた、そいつを探しに走れるだろうか。

 

文章:ぴえろ

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