サスペンス・ホラー

怖い話『壁の黒いしみ』

 

はじめは気にもとめなかった。

 

蜘蛛かなにかの虫が部屋の壁に張りついていると思ったら、単なるしみだった。

なんだろうと思うこともなく、その黒いしみを放っておいた。

 

それから数日がたち、ある朝なにか気がかりな夢から目が覚めた。

まもなく全身がけだるくあちこちに痛みが走った。

 

ふと壁を見やると、例の黒いしみが大きくなっている。

いやな予感がした。

 

それからというもの身体の不調が日増しに悪くなってゆく。

それとともに壁のしみも徐々に大きくなっていった。

しみの形はスリランカに酷似している。

試しに測ってみたら、全長32ミリメートルであった。

 

体中の痛みが酷くなり、方々の病院を受診したが、結果はなしのつぶてだった。

原因不明の病とされたのだ。

 

原因はわたしには分かっていた。あの壁の黒いしみだ。

 

アルコール除菌やカビ取り剤など様々なもので消そうとしたが、ダメだった。

いったいこの黒いしみは何なのか。

 

ついにほとんど身体を動かせないほどまでになってしまい、仕事を辞めざるを得なく

なった。

わたしは身寄りのない独身者だ。知り合いもおらず、だれも見舞いに来るものなどいない。

 

ラジオが流れていた。ラジオを聴くことがわたしの楽しみだからだ。

薄れゆく意識のなかで、ぼんやりとラジオから流れてくるニュースが耳に入ってきた。

・・・スリランカ大統領が逃亡し、国が破産宣言を行いました。・・・

 

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/51809437705/2a186bde4b/

 

 

 

関連記事

  1. 怖い話『仏間の少女』
  2. 怖い話『隣の人』
  3. 怖い話『戻ってきたのは誰?』
  4. 怖い話『消えたラーメン屋のおばさん』
  5. 怖い話『キュクロプスの夜』
  6. 怖い話『眠る男』
  7. 怖い話『二階からの誘い』
  8. 怖い話『ジロジロ見るんじゃないの!』

おすすめ記事

クラシック人気作曲家⑦

皆様こんにちは!桐谷 凛花(きりたに りんか)です。それでは…

一部の有力者によって多数の庶民が犠牲になる

 社会はほんの一部の影響力を持つ、権力者(有力者)の存在によって、無数の一般人が振り…

『楽しくない瞬間』

楽しかった毎日が…今は、楽しくない。突然楽し…

コロナであっても学費を免除しない姿勢

 早稲田大学はコロナウイルス状況下であっても、学費を減免しない姿勢を打ち出した。…

「缶詰」と「ナポレオン」

つい先日、買い物に行く時に、母からイワシの缶詰を買って帰るように頼まれました。そ…

新着記事

PAGE TOP