人間の営為は、どれもこの世にはないものを求めて行われます。
この世にはないものなので、最終的に獲得されることはけしてありません。
おおげさなことを、と思われるかもしれません。
しかし、だれもが何かを探求し追い求めています。
物理定数は、その真理値を得ることはできません。得られるのはあくまでも近似値です。
すなわち、ある有限の桁での正確さでしかそれを知ることはできません。
モデルは、あくまでもモデルであって、現実そのものをそのまま表現するものではありません。どこまでいったとしても、模型に過ぎないのです。
だれもが幸福を追い求めます。しかし、完全なかたちでの幸福は達成されることはありません。なぜなら、それはこの世にはありえないものだからです。
このように考えると絶望的にもなりそうですが、じつはそうではありません。
そうした、この世にはないものを求めることが、生きていくことの意味そのものだからです。
それゆえ、この世界とは全く異なる上位の次元として、理念界というものを哲学者が考え出したのはあまりにも妥当なことでした。
近代理性は、そうした検証不可能なものの存在を前提としないことから始まりました。
その限界それ自体が、さまざまな人間のつくりだした災厄を導くきっかけであったのではないでしょうか。
理想論を語るのではありません。
そうではなく、その断念をしつつも不断に追い求めることが大切なのではないでしょうか。
文章:増何臍阿
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