コラム

短編小説:『天使の昇天』

 

海岸に天使が流れ着いた。壊れてしまい打ち捨てられたボートのように横たわっている。

 

だらしない太鼓腹を横にして、禿げ上がった頭をもつそれは、たしかに天使であるようだ。

というのは、背中に大きな翼があったからだ。それはひどく薄汚れていた。

さらに、でっぷりとしたお腹に小さく「Angel」と刺青のようなものがあったからである。

 

というわけで、村人たちはそれを天使であると断定した。

 

天使は怪我を負っており、体の所々にかさぶたができていて、ずっと動かず横たわっているのだが体を動かしたときに苦悶の表情を見せた。

 

どうやらひどい扱いを受けたようである。なぜなら天使だからだ。

 

村人たちは、それが天使であることに、ますます納得した。

 

触らぬ神に祟りなし、と言われる。村人たちは天使に接触を試みることはなく、遠くから拝むだけにとどめることにした。天使は崇拝の対象となったのだ。

 

漁村はもう何年も不漁が続いており、村を見捨てて出ていく若者や、餓死してしまう気の弱い老人や、食料を奪い合う輩などがいた。

 

しかし、天使が海岸に流れ着いたころから、徐々に魚が獲れはじめ、半年後にはこれまで誰も見たことがないほどの豊漁となった。

それゆえ、天使はますますあがめられることになったのである。

 

 

ある夜、輩が悪事を働いた。

天使を連れ去ったのだ。

 

嫌がる天使はセイウチのように身をよじらせてキュウキュウと苦しそうな鳴き声をしている。

トラックで天使を運ぶ輩はそれに驚いて、ハンドル操作を誤りガードレールに激突し、トラックは轟音を立てながら海岸に転がっていった。

 

そのとき村人たちは見た。天使の昇天を。

薄汚れてしぼんでいた翼がみるみるうちに清浄な白さを得て大きく力強く開いた。

空が一瞬のうちに明るくなり、天使が還っていったのだ。

 

 

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/50573200553/4bd4e96a7c/

 

関連記事

  1. 浜矩子,城繁幸,野口悠紀雄,ほか『日本人の給料 – …
  2. カジノはホントに悪か?
  3. 心臓がトリプルアクセル!
  4. 短編小説:『ふしぎなおとしもの』
  5. 「電子の家計簿 マネーフォワードME」
  6. 前野隆司著『実践ポジティブ心理学』のまとめ【第二回】
  7. 見世物小屋じゃないよ?
  8. ~ペットロス症候群を考える2~ 次のペットをお迎えする時期につい…

おすすめ記事

『耳をすませば』―自分の幸せの音―

波の音…砂の音…風の音……

愚痴をいわない人と親しくなりたい

 人間は愚痴をいう生き物といっても差し支えないほど、あちこちで不満合戦を起こしている…

『乗り越えた先に…』

苦しみを乗り越えた先に…何が待っている。幸せ…

2024年から新たな紙幣の顔となる3人を紹介!

4月9日火曜日、麻生財務相により新紙幣が発表され、新元号に続き世間で賑わいをみせてい…

『時間』―時間は、時と場合長くもあり一瞬で終わるー

辛い時間は長い。幸せの時間は一瞬。楽しくない時間は長い。…

新着記事

PAGE TOP