大学時代の友人の話。
地元が海の近くの友人は夏になると、仲間たちとよく海で泳いだそうだ。
しかし、少し離れたところに泳いではいけないとされていた小さな入江があった。
そこは、表面的には波が穏やかでも、海面の下のほうは流れが複雑で足元が救われ、引き込ずり込まれてしまうという。
だが、潮が引いた岩場へ、取り残された魚を獲りには、行っていた。
その時も、仲間の一人と泳ぎに飽きた頃に、魚がいないか見に行った。
岩場をあちこち見ていると、
「おーい」と声がした。
見ると、仲間がそこで立ち泳ぎしていた。
「気持ちいいぞー、お前も来いよー」
と言う。
『なんだ、意外と平気なんだな』
と、友人は、誘われるままそちらへ行こうとした。
すると、
「何かいた?」
と背後で声。
それは泳いでいるはずの仲間だった。
ハッとしてもう一度、海に目を向けた時には、そこに何もいなかったという。
文章:百百太郎
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