サスペンス・ホラー

怖い話『下宿』

 

おれはアパートに下宿している。学生だ。

 

この部屋は、寒い。異様なほどに、寒い。

この土地の冬の寒さをなめていた。越してきたときは春だったから、寒くはなかった。

安さの割に部屋が広いから選んだのだが、なにか部屋の構造上冷えるようになっているのかもしれない。

 

家賃が低いのは、ひょっとしたら心理的瑕疵の問題があるからかもしれなかった。

前の住人が不幸な亡くなり方をしたということだ。

 

そんなことを思ったのは、あるとき金縛りにあったからだ。

夜中に目が覚めて、からだが全く動かない。

起こそうとしてもからだが起きてくれないのだ。

あるいは、目は覚めていなくて、そんな夢を見ただけなのかもしれない。

 

コツコツと響く靴音が聞こえる。

アパートの廊下をハイヒールを履いた女性が歩いている。

 

バタン!と大きな音を立ててドアが閉まる。夜遅くに帰宅するとなりの部屋の女性だ。

私は早くに床につくので、迷惑至極である。私は年寄りなのだ。

 

 

ここに越してきたとき、私はまだ学生だった。

 

いろいろあった。だが、なにもなかったともいえる。

世の中にあるのは、夜中にアパートの廊下をガンガン鳴らして歩く女であり、

不幸にも亡くなってしまう住人である。そのどちらかだけなのだ。

 

この部屋は寒い。異様なほどに、寒い。

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/32206987546/946e9a6325/

 

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