コラム

中井 久夫『治療文化論: 精神医学的再構築の試み』岩波現代文庫

中井 久夫『治療文化論: 精神医学的再構築の試み』

 

本書は1983年に刊行された『岩波講座 精神の医学』第8巻の概説として執筆されました。

その新装再販(2001年)が本書で、精神分析についての新しい視角を提示した一冊と評された本です。

 

早速、本書の紹介に入ります。

 

本書は、患者へのアプローチの仕方を①個人の境遇②地域的な特性③誰にでも当てはまるような病態、という風に分類して、それぞれ異なった視点を共時的に用いながら分析する手法を取り入れていきます。

たとえば、重症の患者は③の視点が重要。嗜癖による人格障害は①あるいは②の視点を活用する。

これらを個々のケースに当てはめながら、視点を横断する柔軟性を身に付けることが、タイトルにある「精神医学的再構築」に繋がるとのことです。

 

以上のことを、著者が使った用語で示すと、①が「個人症候群」、②が「文化依存的症候群」、③が「普遍的症候群」となります。

 

著者は哲学的考察や文芸・現代思想・歴史などに対する造詣が深いため、読者が著者の理解に辿り着くためには、予備知識なしでは追いつかず、ゆえに一般の読者にとっては難解な本のひとつとなり得ましょう。

たとえば、①ないしは②の視点に関して言及すると、イーサン・ウォッターズ著(2013年)クレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか』の中で指摘された点(米国版の精神疾患の概念が世界規模で輸出された)を踏まえていたとすれば、中井英夫氏は別の角度から既に考察しており、③の視点だけでは病気を解明できないという視点を得ていたことが分かります。

さて、現代の精神医学は「DSM」や「ICD」におけるアプローチ(操作的診断基準)が支配的です。

そのような時代に入る以前には、所謂、精神分析学的な手法を取り入れた治療に着目する視点が存在していました。先人の残した治療の観点を尊重しつつ、新しい方法を模索することが科学の進歩に限りなく貢献します。ですから治療者は、安易に分析的手法を切り捨てるのではなく、過去に培った精神分析的な治療法も精神医学の中に継承し続けていかなければならない。こうした気概を保ち続けながら、新しい方法を導いていくことも必要なんだろうと思います。

 

奇しくも『診断と統計のマニュアル第4版』DSM-Ⅳの編集委員長として知られるアレン・フランセス自身が、自著『〈正常〉を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告』の中で、「正常者を病気のカテゴリーに囲い込むな」と警鐘を鳴らし、それを排して、正常な精神医学を志向するように改めよと指摘したことは、既に周知の事実でもあります。

 

類型ごとに仕分けして安易に病名を付ける現代精神医学に対して、著者の中井英夫氏は「多様な方法論と共存していく」といったような観点から、精神医学自体に警鐘を鳴らしている数少ない人だと受け止めた次第です。

 

文章:justice

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