コラム

オースター『最後の物たちの国で』のご紹介

 

オースター『最後の物たちの国で』白水社

 

本書は、アメリカ文学の大御所ポール・オースターが、デビュー作の『孤独の発明』及びニューヨーク三部作(『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』)につづいて発表した、第五長編です。

 

一言でいうと、本作はディストピア小説です。

 

半年間消息の分からなくなった兄ウイリアムを追って、兄の赴任先の国へ向かったアンナから「あなた」へ宛てた手紙という形式をとっています。

 

その国は極限まで荒廃し、飛び降り自殺をした人の周りに人々が群がり、身ぐるみはがして明日の糧にするほどまでになっています。盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなり、人々は住む場所を失い、食物を求めてさまよいます。

 

崩壊し続ける世界で、すべてがゼロに向かうなか、アンナは必死に生きます。

 

作者のオースターは、この作品では少し前の過去と現在を描いた、と語っています。

人肉処理工場など、一見してありえないように思われるものも、例えばドイツ軍によるレニングラード包囲下で実際に存在したのではないかと言われています。

 

そうした、かつてあったかもしれない、あるいは今現在もあるかもしれない現実を描きます。

 

ラストは、かすかな希望を感じさせるものになっています。

 

抜群に面白い本作、ぜひ手にとっていただきたいです。

 

文章:増何臍阿

 

関連記事

  1. 2024年の選抜出場予想
  2. 他者のために生きる
  3. 小説:『友達のいない男は、クラスメイトの男性恐怖症克服に協力させ…
  4. 短編小説:『最後は幸せ』
  5. 『グレン・グールド 孤独のアリア』
  6. 菅野仁『友だち幻想  人と人の〈つながり〉を考える』ちくまプリマ…
  7. コンプラ上等な人間になりたい
  8. 「道を訊く」エピソード三選

おすすめ記事

第93回選抜大会の抽選会が行われた

 第93回選抜大会の抽選会が行われました。今回は抽選の結果について書いていきたいと思…

阪急神戸線『王子公園駅』界隈の観光案内

 阪急王子公園駅を降りて、山側に『神戸市立王子動物園』等の文化施設があり、海側に降り…

死を見つめて

生あるものは、必ず死ぬ。これは、誰にとっても避けるこ…

世界の国と国旗☆第70回目 サントメ・プリンシペ民主共和国

皆様こんにちはLewis Abe(ルイス アベ)です。いつも…

障がい者雇用率の引き上げについて

画像出典元:https://visualhunt.com/f7/photo/15434720586/…

新着記事

PAGE TOP