『推手(すいしゅ)』アン・リー監督作品の紹介!
『推手』はアン・リー(李安)の監督デビュー作。
アン・リーは、アカデミー監督賞を二回、ゴールデングローブ賞 監督賞を二回受賞した台湾出身の映画監督です。
あらすじ
太極拳師範の朱老人は、息子夫婦とニューヨークで共に暮らしている。
息子は父のためを想い同居を選んだが、白人で作家である妻マーサは、言語も通じず執筆の邪魔になる朱老人を疎ましく感じている。
朱老人は太極拳を教えることだけが生きがいとなっている。
マーサが過度なストレスから入院を余儀なくされ、息子は父を老人ホームに入れることを考えはじめる。そして朱老人がある日姿を消してしまい…..
みどころ
この映画では、米国と中国の文化の違いや世代間の相克、家族観のすれ違いを見事に描いています。
コンピュータを学びアメリカで成功した息子は、家族を大切にする中国の価値観を失っておらず父を呼び寄せるのですが、アングロサクソンのアメリカ人である妻は、べたべたしない自由な親子関係を築く家族観を持つがために、義理の父である朱老人とうまくやっていくことができません。
朱老人のほうも、疎まれるがゆえに嫁と良い関係を結べず、太極拳だけが安らぎになっています。
「推手」と呼ばれるものの達人である朱老人が、料理教室で力を発揮してしまい迷惑をかけたり、中華料理店の皿洗いのバイトとして雇われたときにオーナーにぶちぎれて高い武闘力を見せるところなど、痛快なシーンもあります。
異なる国の文化の違いや相克を、安易な解決策を提示することではなく、それをありのままに表現することで、お互いの歩み寄りや思いやりが大事なんだ、ということを改めて感じさせる、強い説得性を持った内容になっています。
タイトルとなっている「推手」は、相手の体のバランスを利用して自分の安定を保つ太極拳の技のようです。
無理に押したり、または押し返したりするのではなく、持ちつ持たれつの互いの関係を維持していくことを示唆しています。
また、朱老人を演じるラン・シャンのシュッとした身のこなしと、それと裏腹なコミカルさのある演技とが絶妙な面白さを醸し出しています。
さいごに
アイデンティティの問題や世代間交流、異文化コミュニケーションといった枠組みで安易に逃げないところに非常に好感のもてる作品です。
家族の問題を扱うにしても、深刻になりすぎずに、ほのかな希望も感じさせるのがとてもいいです。
どう「老い」ていくか、といった、「老いの哲学」を考えるうえでも、すごく参考になるところがあると感じました。
ぜひ観ていただきたい作品です。
文章:parrhesia