一人でカレー屋にいったときのこと。
カレーを食べ終わって店を出ると、雨が降っていた。
空を見上げながら走って帰ろうか、しばらく待とうか迷っていると、店主が出てきて言った。
「そこの傘、持って行っていいよ。使い終わったらそのまま捨ててもらっていいから」
見ると、傘置きにいかにも古い傘があった。
それをさしてみた。
ところどころ錆があり、かなりボロい感じだった。
- ないよりマシか -
わたしはその傘をさして帰路についた。
帰り着くと傘はアパートのゴミ置き場へ。
その夜から、シクシクと泣く声が何日か続いた。
その度、布団をかぶって眠りについたが、どうしても気になる。
最近変わったことと言えば、あの傘しか思い浮かばない。
わたしはまだ回収されずにあったゴミ置き場の傘を持って、カレー屋に向かった。
そして傘は元の傘置きに返した。
あの傘はあの場所がお気に入りだったのだろう、その夜から泣く声がしなくなったのは言うまでもない。
文章:百百太郎
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